「・・・は? 今何だと・・・?」

「母の聞き間違いでしょうか・・・? もう一度言ってみてくださいな」

クリムゾンとシュザンヌは目を丸くしていた。ここはバチカルがファブレ邸。更に言うならばクリムゾンとシュザンヌの私室である。目の前には二人の愛する息子達。

「「ですから、マルクトへ行かせてください」」

クリムゾンとシュザンヌにとって聞き間違いであって欲しかった言葉が再度告げられ二人は固まってしまった。






ことはティアからヴァンをダアトへ強制的に帰国させたことを知った時まで遡る。

ヴァンの問題も片付き、恐らくは暫くの間イオンやティアがヴァンを見張っていてくれるだろう。その間にルークとアッシュはピオニーへコンタクトを取ろうと考えていた。

ケセドニア北部の戦い、強いては今後起きるであろう戦を防ぐためである。しかしそのためにはこの屋敷から外出しなければならない。しかも、城下町へ行くような気軽さで行けるものでもない。

結局、クリムゾンとシュザンヌに、そしてインゴベルトに許可を貰わなければならない状況であるという判断へ行きついた。それが冒頭へと繋がることとなった。





当然突然の息子達の申し出にクリムゾンとシュザンヌは目を瞬かせ言葉を発する余裕などない。

マルクトと言えばピオニーが新たに即位したとはいえホド戦争からそう年月も経っていないためファブレを憎む人間も多い。ガイの場合運が良かっただけでいつファブレを憎む人間に殺されてもおかしくないのだ。
そんな危険な場所へ大切な息子達をそう簡単に出せるわけがない。だが、何故急にそんなことを言い出したのか。すぐに却下出来ないのはそのためであった。

「何故急にそのようなことを言うのだ。勿論今の勉強が一段落つけば視察へも行かせて見聞を広める機会も持たせよう。マルクトへなど危険なことをする必要はない」

クリムゾンは諭すように息子達へと話しかける。だが、それで納得する二人ではなかった。

「いいえ、マルクトへ向かいたいのは見聞のためではありません。ピオニー陛下は幸い預言スコア保守派ではないと聞いています。ここでピオニー陛下と冷戦状態を続けるよりは同盟を組み
預言スコアの徹底回避を共に進めてみてはどうかと考えたのです。その意志の証明として俺達が行けばピオニー陛下も納得してくれるでしょう」

「いや、しかし・・・マルクトだぞ? ファブレを憎む者は数多くいる。何もお前達が行かずとも・・・」

心底クリムゾンは二人の息子を心配していた。折角スコアの犠牲にせずに済んだ息子、そして双子となって帰ってきた息子、いずれもみすみす死なせたくはない。

勿論二人もその危険性は解っていた。ピオニーの傍へ行くということは自分達のキムラスカ王家の象徴である赤い髪と緑の瞳を知る人間の中へ行くということである。

ピオニーの傍に仕える人間達ならばその象徴を理解している者は多いだろう。一般市民レベルではさほど知られていないようだが。

まだホド戦争が終結して間もない今、ファブレを恨む人間達の多くが住まう場所へ乗り込もうと言うのだ、クリムゾン達が反対するのも無理はない。

だが、ここで折れるわけにもいかない。この機会を逃せば後悔することになると、解っていたのだから。

「俺達が行ってこそだと思います。先ほど父上が言ったようにファブレを憎む人間は数多くいる。ですがそれでもマルクトに赤毛を晒して入国する、それはそれほど重大な何かがあると、そう思わせることはできませんか?
それにピオニー陛下の傍にはガルディオス伯爵もいる。それにご心配だと仰るなら俺達に白光騎士団なり何なり護衛をつければいいじゃないですか。俺達は絶対に意見を曲げるつもりはありません」

まだまだクリムゾンの目線より下にあるルークとラウアヴェルの目がじっとクリムゾンを見つめる。奥に絶対に意見は曲げないという焔を灯して。

だが、そんな国家の一大事を自分の権限で決めるわけにもいかず、結局インゴベルトに取り成すという形で終結した。






そして後日、キムラスカ・ランバルディアが王都、バチカルの頂点に聳え建つバチカル城。その謁見の間において、インゴベルトは目を丸くしていた。

当然だろう、わざわざ敵国の真っただ中へたった二人、しかもたったの10歳の子どもが乗り込もうと言うのだ。驚かない方がおかしい。隣ではナタリアが貴方がたが行かずとも、とでも言わんばかりに驚いている。

だが、インゴベルトも王。思考を落ち着かせるのは速かった。

「話は解った。だが、お前達はまだ10歳になったばかりだろう。子どもの名代など馬鹿にしていると思われてもおかしくはない。誰かその地位に見合う人物の供として同行するならば許そう」

いくら王位継承権第3位と4位を持つ人物とは言え政に携わったことのない子どもが行くとなってはマルクト側も困惑するだろう。キムラスカはマルクトを馬鹿にしているのか、と。

そして、ルークとラウアヴェルが折れないことはクリムゾンとシュザンヌが良く知っている。それでいてそれなりの地位を持った人物というのは一人しかいなかった。






翌日、ルークとラウアヴェルはケセドニア行きの船に乗っていた。二人のいる部屋は当然白光騎士団が固めている。そして・・・。

「グランコクマに着くまでの間は私が勉強の面倒を見よう」

それなりの地位、つまりは王位継承権第3位と4位より高く、名代として馬鹿にされないだけの実力を持った人物、それはクリムゾン=ヘアツォーク=フォン=ファブレ。二人の父親である父クリムゾンだった。

当然と言えば当然なのだが、全くもって以前の歴史とは異なる展開に正直ルークもアッシュも不安を抱かなかったと言えば嘘になる。

クリムゾンの言葉に二人は了解の意を示して返答し、乗り物酔いする人間にはオススメ出来ない勉強が始まったのだが、二人は別のことを考えていた。

たったひとつだけ・・・このピオニーへの進言が上手くいくように、と。







場面は変わって、マルクト帝国が首都 グランコクマ。今日も今日とて譜術によって水の舞う美しい街並み。その奥にピオニー=ウパラ=マルクトの住まう宮殿があった。

そして、玉座には肩付近まで伸ばした金髪に浅黒い肌を持つ皇帝と言うにはまだ若いとも言える青年。そのやや離れた場所には同じく金髪の少年、そしてマルクト軍の制服を着た茶髪の青年。

側近として控えさせているジェイド=カーティス大佐と年若いとは言え伯爵地位を賜ったガイラルディア=ガラン=ガルディオスである。

更にその正面には、見事に赤い髪を持つ人物が3人。ホド戦争が終結して間もない今、敵国たるキムラスカの王位継承権第2位から4位を占めている人物達がこの場に終結していた。

だが、勿論ピオニーの前とはいえ跪くなどしてはいない。かろうじて立礼でピオニーらの前に存在していた。

ピオニーとしては、何故キムラスカの王位継承権を持つ人物達が揃ってマルクトへ押し掛けてきたか解らない。ここは敵国。王位継承権の、しかもそれなりに高い人物達ともなれば住民に知られれば殺されてもおかしくはない。

その程度のことは彼らも承知していた筈である。そのリスクを冒してここまでやってきた理由。それが解らなかった。

「遠路はるばる我が宮殿までよくおいでくださった。して、未だ冷戦状態は続いていると思ったが・・・何用か?」

ピオニーの目が、3人を探るように細められる。離れた場所に立つガイやジェイドとて恐らくはピオニーの身に危険が及ぶようなことがあればすぐにでも戦闘出来るような態勢となっているのだろう。

だが、この謁見の間へはピオニーを陥れるために来たのではない。

「こちらに、導師イオンがお見えになりませんでしたか?」

クリムゾンは迷った末、変化球でいくことにした。というのも、単刀直入に預言スコアから脱却しませんか、と言ったとしても何か企んでいるのではと考えるのが普通である。

それ故の発言、というのが主な理由でピオニーの探るような目が王としての資質をクリムゾンに感じさせていた。

「導師イオン? さて・・・預言スコアを詠んでもらう日は近々あっただろうか」

わざとらしく呟くように返すピオニーだが、内心は首を傾げたい思いだった。まさか導師イオンが来たかどうかのためにわざわざ敵国に王位継承権を持った人物が来るわけがない。

だが、ピオニーも流石である。キムラスカが近年預言スコアを重用しなくなったとは聞いていたが、以前は預言スコア保守派、そんなキムラスカに対し聞きようによってはどちらともとれる返答をしてこちらの考えを読ませない。

僅かなやり取りとはいえ、ルークもアッシュも腹の探り合いがどういうものか、解った気がしていた。

しかし、いつまでも本題に入れないのは焦れったさがある。立礼をしたままのルークとラウアヴェルだったがチラチラとクリムゾンを盗み見ていた。

「噂に違わぬ賢帝ぶりですな。マルクトは良い皇帝をお迎えなされた」

ふっと肩の力を抜きようやくクリムゾンは肩の力を抜き返答した。腹の探り合いが目的というわけではない。チラチラと何度もこちらを見る息子達の視線にクリムゾン自身が耐えられなくなったというのもあるが。

「試すつもりではなかったのだが・・・非礼をお詫びする。陛下、今回私どもがこうしてマルクトへ足を運んだ理由、それは預言スコアに関することなのです」

結果的に試すようなやり取りとなってしまったことに対し謝罪すると共にクリムゾンはそう切り出した。ピオニーもやや肩の力は抜いたものの鋭くクリムゾンを見るその目はそのままだ。

だが、クリムゾンは躊躇せず謁見の間に声を響かせる。預言スコアからの脱却、そして預言スコアに詠まれたオールドラントの滅亡を阻止するために。

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