ここはパダミヤ大陸が中心 ダアト。

そのダアトの中で最も大きな建物、ローレライ教団教会。

その奥深く、ローレライ教団の兵士 神託の盾オラクル騎士団団員ですら滅多に立ち寄らないような部屋に彼はいた。

ローレライ教団最高指導者 導師イオン。そしてそのすぐ傍には女性が二人。

一人は亜麻色の髪を肩を過ぎる程度まで伸ばした 冷たい印象を持ってしまう藍色の瞳を持った少女。

もう一人は 桃色の髪を腰のあたりまで伸ばした緋色の瞳を持った少女。恐らくは導師守護役フォンマスターガーディアンなのだろう。

こじんまりとした部屋の中 女性二人は導師の後ろに控えている。

「まずはご苦労様でした。貴方のおかげで『ガイラルディア』は無事爵位を戴いたそうです」

イオンは亜麻色の髪の少女にそう労いの言葉をかける。

「無事で何よりでした。暗殺部隊が派遣されていると彼女に聞いた時には驚きましたが・・・」

亜麻色の髪の少女は、隣に立つ桃色の髪の少女をチラリと見てそう話す。

その口元には心底安堵したような微笑みが覗いている。

対し、桃色の髪の少女は不安げな顔で可愛いのか不気味なのか微妙なぬいぐるみを抱き締めている。

「イオン、様の・・・めい、れい? のとおりに・・・した、だけ」

少女は言葉足らずでたどたどしく、更には単語すらも曖昧なのか時折首を傾げる仕草をしつつもそう話す。

「アリエッタはよくやってくれたよ。しっかり僕の言うことをちゃんとやってくれたから僕等の作戦は今上手く行ってるんだよ」

出来るだけ言葉を噛み砕き、わかりやすく諭すようにアリエッタ、と呼ばれた桃色の髪の少女の頭を撫でながら導師は言う。

「しかし導師イオン、このままでは彼らの不安を煽るだけになってしまうのでは?」

亜麻色の髪の少女はそんな二人の様子に微笑ましい気分になりながらも職務中、という枷をはめ

二人の意識を戻すように咳払いをひとつするとそう尋ねる。

「・・・そうですね・・・。これ以上貴女にバチカルへ向かってもらってしまってはヴァンに見つかる可能性もありますしね」

イオンはその幼い顔を顰めさせ、何やら考える素振りを見せる。

傍らに控える二人、特に亜麻色の髪の少女も何やら思案するような表情をするが目の前の彼をじっと見据えたまま。

桃色の髪の少女、アリエッタも先ほどからほとんど表情は変わっていないとはいえ不安げな顔をしている。

「・・・今回はアリエッタ、貴女に頼みます」

そしてイオンが、俯いていた顔をあげた先には先ほど頭を撫でた幼い少女の姿があった。









「今んとこはなんもないからいいけどさぁ、本気でヴァンあたりは教団に返さないとまずいよな」

イオンらの冒頭での会話があってから数日のある晴れた午後。

ルークとラウアヴェル・・・『アッシュ』と『ルーク』はファブレ家で保管してある書物の置いてある図書室で

傍目にはインクのついたペンを片手に紙を目の前に置いた、勉強のようにも見えるが

二人にとっては勉強よりも深刻な悩みを暴露しているところでもあった。

キムラスカ兵の話によれば、未だにバチカルをうろうろしているらしいとの旨を聞いてしまったのである。

ガイが伯爵となりピオニーが皇帝となったことに関しても、確率から考えれば奇跡的でもあった。

ヴァンさえバチカルにいなければまだもう少し確率の高いやり方というものがあったはずなのにと恨んだこともある。

そして、裏で暗躍する何者かの存在。

アッシュとルーク二人にとってこのふたつは悩みの種でもあった。

「せめて神託の盾オラクルの人間と接触でもできればな・・・」

「・・・だから・・・せっしょく・・・しにきた、です・・・」

「え?接触しに来たって誰・・・・・・・・・・・が・・・・・・・・・・・・・?」

ルークは思わず、と言った風に言葉を返したのだがここには自分とアッシュしかいなかったはず。

明らかに少女の声が聞こえたのは何なのだろうか?

「・・・イオン様、ルーク、とアシュ・・・に会うよう頼まれた、です」

そのたどたどしいまでの言葉遣いでアッシュの名をさり気無く間違えつつ

いつのまにやら開いていた窓の縁には桃色の髪の少女がちょこんと腰掛けていたのだった。







「・・・俺はアッシュだ。アシュじゃない」

「アッシュ、違うだろ!ここはなんでアリエッタがアッシュの名前知ってるかってことを突っ込むべきだろ」

大声を張り上げてアッシュに注意するルーク。そしてその様子を至極当然のように見守るアリエッタ。

そんな彼女の様子にアッシュはある疑問が浮かび首を傾げた。

「お前、俺達がお前の名前を知っていたことに驚かねぇのか?」

そう言ってからルークははっと気付いた。また墓穴を掘った、と。

今の時点で彼女は自己紹介すらしていないのだ。

それにも関わらず彼女は気にした様子もなく、平然として二人を見ている。

「イオン、様・・・言ってた。バチカルの・・・『ルーク』、と・・・『アッシュ』・・・ティアと同じ。
またティアが・・・バチカル、来たらそうちょ・・・バレる、から。アリエッタ、来た、です」

座っていた窓の縁からすとんと降り立ちきゅっとぬいぐるみを抱き締めながらたどたどしく説明する。

時折単語がわからなかったり発音が曖昧だったりするのか助詞がなかったりとぎこちない言葉。

だが、そんな彼女が重要な単語だけは述べてくれたからか二人にはなんとか意味が繋がった。

イオンが『バチカルの【ルーク】と【アッシュ】は【ティア】と同じ』だとアリエッタに教え

その【ティア】は一度バチカルに来たことがあり、再びここへ来れば総長・・・ヴァンに見つかる可能性がある。

だからアリエッタが来た、と。

こうして組み合わさった単語から推測できること・・・。

ティアも、俺達と同じだというのなら。

「アリエッタ・・・ティア、から・・・おてがみ・・・預かった、です」

そんな確信めいた思いを抱いていたルークらはアリエッタの言葉に我に返る。

アリエッタは四つに折った紙を取り出すとルークに差し出した。

ルークへ。

ND2018 エルドラントにてルークと分かれた後、第七音素セブンスフォニムと思しき力によりND2008へ転移。

ローレライと思しき声が聞こえたことから ローレライの力によるものと思われる。

ND2008へ流れ着いた私は現導師イオンに協力を要請及び経緯を説明。

なお、当時代のガイをマルクトへ帰国させるため 一度のみバチカルへ赴き
無事、ガイをケテルブルクへと送り届けよとのイオン様の命を完遂。

また、ピオニー陛下即位における騒動には関与せず。おそらく預言スコアの強制力が働いたものと思われる。

今回、ルーク並びにアッシュへの連絡及び協定を組みたい、とのこと。

この連絡及び手紙の受け渡しを
私が兄 ヴァン=グランツに遭遇した時のことも考慮したイオン様の命によりアリエッタに委託。

この後、アリエッタの動きでヴァンをダアトへ帰還させる予定。

この後の連絡については、兄がバチカルを去ってからグランコクマへと来られたし。



・・・あの、ごめんなさい。イオン様にこの手紙見られて笑われてしまったのだけれど、おかしかったら言ってください


ティアより




「・・・あいつのこの報告書みてぇな書き方、全然変わってない」

泣きそうになっているのを堪えているような、眉を顰めながらも口元には笑みを浮かべた顔で ルークは何度もその手紙を読み返す。

エルドラントで分かれたティアが、あの日タタル渓谷へ一緒に飛ばされたティアが今同じ時代にいる。

自分達と同じく、ローレライの言葉を聞いてここにいる。

そんなルークの様子をアッシュは、何処か穏やかな目で見つめていた。





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