国民にまさか『ルークのレプリカが造られてそれをファブレ家次男とした』などと知られれば
難癖をつけてくる輩がいないとも限らない。何より国民には『レプリカ』という単語が浸透していない。
ルークら本人達は7年ほど後に頃合いを見計らってその事実を公表するつもりでいたが
今回は『10歳までその存在を隠すよう
イオンとの対談があった手前、あまり
だが、そのおかげで国民には案外すんなりとルークは、いやラウアヴェルは受け入れられたのだった。
問題はダアトであった。
インゴベルトが『ラウアヴェル=フォン=ファブレ』を世間に発表すると瞬く間に
『キムラスカ王族に双子が誕生するなど
『忌み子をダアトにちょっかいを出してまで何故世間に発表するのだ。キムラスカ王家の頭脳を疑いたくなる所業である』
『忌み子を王家に迎えるなどキムラスカにおける上層部は頭の弱い者ばかりなのか。これは始祖ユリアへの冒涜である』
ある程度はオブラートに包んではいたが、そのような抗議がダアトから何度も送られてきた。
返答次第ではユリアの名の下に天罰が下るだろう、とも。
こんなものを届けられたキムラスカ上層部はあまりの言い草に頭を抱えた。
つい先日陛下の命により、
今まで付き合ってきた
はっきり言って侮辱以外の何者でもない。キムラスカ上層部はそんな抗議文を送ってくる神経を疑った。
同時に、このようなものを送りつけるような連中の崇拝するものを信じ、今までやってきたのかと思うと
頭痛が酷くなるようだと彼らは思ったという。
キムラスカは元々は
いくら
これには流石に
これが届いた翌日には上層部には
上層部は、この文書がダアトからではあったが非公式、更には手順も滅茶苦茶な上ダアトの印が押されていないことから
ダアトの総意ではないと判断した。イオンの許可もなく勝手にそのようなことを行った彼らは今頃ダアトの牢だろうか。
そしてインゴベルトは『10歳まで
キムラスカに対する侮辱であるとして抗議の発信元をキムラスカに出頭させるようイオン宛てに要請文を公式文書として送った。
もちろんイオンは自分の顔に泥を塗ったその抗議の発信元を喜んで差し出し、めでたくキムラスカの豚箱行きとなった。
『ラウアヴェル=フォン=ファブレ』は10歳までその存在を世間に明かしてはならなかったルーク=フォン=ファブレの双子の弟である
という全てを知る者からしてみれば捏造以外の何者でもない認識が世界に定着したのだった。
ただひとつ、イオンが何故『ラウアヴェル』に関して特に咎めなかった理由は今の時点でわからなかったが。
まだ問題は残っている。
いくら『ラウアヴェル』としてルークが認められようと、ルークらは安心してはいられなかった。
バチカルにおいて、ヴァンの対処が全くできないのだ。
警備が強化されたとはいえ、ヴァンならば二度目の誘拐くらいどうとでもなるだろう。
侵入と誘拐程度ならいくら白光騎士団の警備があろうと簡単のはずだ。それだけの実力を彼は持っている。
そしてもうひとつの武器である彼の話術はクリムゾンも認める部分がある。
今思い返してみると、ざっと数えるだけで矛盾のある言動はいくつも浮かぶが
それは
それだけ彼の言動は盲目な人間を信じ込ませる力があるのだ、とクリムゾンは考えている。
よって今は、ようやく次男を世間に発表できたので少々まごついている、という理由でヴァンを遠ざけてはいるがいつまでもつかわからない。
そして、もうひとつファブレ家には問題があった。
ルークとアッシュはその者を見る。そこには金髪に紺碧のような色合いをした瞳を持ったまだ幼さの残る少年。
ファブレ公爵が攻め込み、一家を惨殺したとされるガルディオス伯爵家の息子であった。
キムラスカが
最近ではルークもアッシュもまるで10年分の愛情も押し込むかのような父の愛情の注ぎっぷりに困惑しているという状態である。
ガイが復讐を諦めたのは、息子が17歳で死ぬということから公爵が『ルーク』を疎遠に扱っていた所為も多少あるため
一番の問題はガイの行動であった。今度は敵として戦うなど、二人にとっては・・・特にルークにとって耐えられることではなかった。
「あのさ、えっと・・・話があるん・・・だけど・・・」
主にアッシュの計らいでルークとアッシュの共同部屋にガイを呼び寄せた。
どうかこの話し合いが上手くいきますように、とルークは密かに願った。
「単刀直入に言う。お前は何故俺達を殺そうとする?」
アッシュはもごもごするルークに痺れを切らしたのか直球で言った。
ガイに少々動揺がはしったが、それはすぐに消えた。
そして、何処か安心したような、それでいて何処か哀しげな表情を醸し出す。
「そっか・・・バレちまってたのか・・・。・・・俺はホド生まれの貴族なんだ」
アッシュはこの言葉が少々引っかかった。
『バレた』なら理解できるが『バレてた』と言ったからである。
過去形にする場合、普通その物事が終わるか諦めるかしてからでなければ使わない。
ガイはそんなアッシュをよそに話し始めた。
ルークはその話を一部始終知っているが、アッシュは曖昧な部分もあったらしくガイを見る。
「で、俺が5歳の誕生日の時にさ、屋敷に親戚が集まったんだ。んで、
「ホド・・・戦争か」
ルークがポツリと言った。
「ホドを攻めたのは・・・父上、だな」
自分の父に家族を殺されたという事実はなんとなくわかっていたのだが、詳細な事実を知らないアッシュは重々しげに言った。
「そう、俺の家族は公爵に殺された。家族だけじゃねぇ。使用人も親戚も。あいつは俺の大事なものを笑いながら踏みにじったんだ!
・・・だから、俺は公爵に俺と同じ思いを味わわせてやるつもりだった」
アッシュはその言葉に首を傾げた。今も自分達を殺そうとしているなら『だった』という表現はおかしい。
「最近の公爵は二人に対して過度って言ってもいいくらいに
こっちが羨ましくなるくらいにいい父親になってる。それが本当なら自分にもあったはずなんだって思ったら
腹が立たないとは言わない。だけど、ファブレ公爵があんなふうに『愛情』ってものを
見せつけるようになってから俺は思ったんだ。『俺のやろうとしてることは間違ってるんじゃないか』って」
『ルーク』が将来のために勉学に励む。当然のことではあるのだが
それが、ガイにとっては不愉快でしかたがなかった。
本来ならば自分も次期国王である『ルーク』ほどとは言わずとも同じようにやっているだろうに、ルークの親が自分の両親や親戚を殺し
自分は復讐のためとはいえ、彼が勉学に励む様子を見ていることしかできないのだから。
だが、もっと不愉快だったのは それを誉めようとすらしない公爵。
ルークをもっと誉めたりしているならば、不愉快も憎しみに変わって復讐心を大きくさせていたことだろう。
だが、何故か公爵は彼を我が子として認めていないかのように接していた。
ガイは僅か14歳だったが、親と子のしこりくらいすぐに気付いた。
そして彼は戸惑った。
親とは、子を愛し、子は親を愛すものだと、それが当然だと思っていたのだから。
ガイは不思議でしかたがなかった。同時に、これでは復讐にならない、と焦ってもいた。
そのうち焦りは薄れ、ルークに対し、ガイが心を開き始めた時だった。彼が誘拐されたのは。
まさか、自分の故郷がそのような卑怯な手段にでるとは思わなかったのである。
そして、『ルーク』が帰還しラウアヴェルが世間に発表されてからというもの、公爵は今までの態度をガラリと変えた。
今までのことが嘘のように。ガイの思い描いていた『親子』というものがファブレ家においてようやく体現することを赦されたかのように。
だが、聡明なガイが気付かぬはずもない。ファブレ家から
ガイはうっすらと思ったのだ。キムラスカは
そんな考えを巡らせているガイをよそにこんな台詞、聞いたかなとルークは密かに首を傾げた。
「きっと復讐なんて、姉上も母上も父上も・・・誰も望んでない。
それに俺は伯爵子息として、マルクトにファブレ家の使用人をしていたことがバレた時どうなるか考えたことなんてなかった。
ファブレ家の使用人してました、なんてバレたら一発で復讐目的だったことがバレちまう。
それがバレたら、ガルディオス家を復興しようにもその前科が、未遂だったとしてもつきまとうことに気付かなかったんだ」
家族の願いはガルディオス家の復興なのに真逆のことをしようとしていたのだ、というガイにルークとアッシュは胸が痛くなった。
自分の父は家族を惨殺したのに、その憎しみをガルディオス家復興のために捨てると言うのだから。
「だから、俺は明日にでもファブレ家の使用人を辞めようと思う」
元々明日にでも辞める予定だったから、こうやって二人と話が出来たのは幸運だったよ、と笑うガイ。
「あ、別に二人のことが嫌いってわけじゃないからな? ・・・そりゃまったくわだかまりがないって言ったら嘘になるが・・・」
ガイは一旦そこで言葉を切り、すっと二人を見据える。
「俺は二人が嫌って言うならすっぱり別れてもう二度と会わないようにするさ。 ・・・だが、そうでないなら・・・俺に時間をくれないか?」
頼む!と頭を下げるガイに二人は困惑する。
やはり自分の気付かないところで歴史は変わってきている、と。
「それは別に・・・。ガイが伯爵子息だってことはびっくりしたけどさ。でも俺達って友達、だろ?」
ルークはそう言うと微笑んだ。
隣ではアッシュも頷いていた。やはりかつての旅でガイを気にかけていたのも友達だと考えていたからなのだろう。
「・・・ガイ、俺達はお前に言っておかなきゃならないことがある」
なんとか和解も済んだところで、アッシュはそう切り出す。
ガイを疑いたくはないが、その瞳に『憎しみ』というものがないことを確認してからだったが。
「俺はマルクトに誘拐され、なんとか無事に戻ってきたことになっている。だが・・・」
アッシュはそこまで言って言葉尻を濁す。
「・・・落ちついて聞いてくれ。俺を誘拐したのはマルクトじゃない」
え?とガイはつい口に出た疑問を表す母音を言う。
「俺を誘拐したのはマルクトじゃない。俺は・・・ヴァン=グランツに誘拐された」
アッシュは同じ言葉を繰り返してから、真犯人を口にした。
それはガイにとって衝撃以外の何者でもないものだった。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。ヴァンがルークを誘拐だって?あいつがそんなことするはず・・・。第一目的は何なんだ?
俺みたいに復讐するならまだしも誘拐なんてしても意味なんて・・・」
復讐目的で誘拐となれば、身代金をたっぷり要求した上で殺すという立派な動機が出来あがる。
それが十分誘拐理由になることにガイは気付いていない。
ガイにとって、誘拐してから復讐というのは身体的に出来なかった所為もあるのだろう。
更に彼は復讐、と言いつつそれを先延ばしにしてきた。
自分よりも年下の、何の罪もない子どもを殺す、というのは良心が咎めたのだろう。
そんな彼だからこそ、そのような卑劣な行動は選択肢になかったのかもしれない。
だが、まだ確定でないとは言えヴァンがファブレ家の子息を攫うのか。
その理由は同じ気持ちだと思っていたガイからすれば復讐以外に考えられなかった。だが。
「ガイ、ヴァンの目的は復讐じゃない。俺自身の力だ」
ここまで言うと必然的にルークの出生の秘密まで明かす必要があったがアッシュは気には留めなかった。
「俺はローレライと、同じ
だから俺は単独で超振動を扱える。ヴァンはその力がほしかったらしい」
あまりに突飛な発言でガイはぽかんとした表情をする。
まさか自分の元使用人が聞くだけで危険だとわかる能力を欲しているだなんて信じられないのも無理はない。
「な、なんでヴァンがそんな・・・。超振動ってアレだろ?二人の
ガイのほぼ確信に近い問いかけにルークはこくり、と頷いた。
一体何のためにそんな能力を欲するのか。ガイは初めて感じる部下の底知れぬ考えに驚きを隠せない。
情報源はアッシュの・・・『ルーク』と『ラウア』の言葉のみ。真実かどうかはともかくもガイは続きを促した。
「・・・俺を誘拐してそのまま手元に置くわけにはいかない。そんなことをしたらすぐに誘拐がバレてしまう。
俺の能力が欲しいのだとしたら尚更な。だから・・・」
アッシュはそこで不自然に言葉を途切れさせた。ルークの前でこんなことを言っていいのかと確認を含めたつもりなのだろう。
ちらりとアッシュはルークを見る。
「だから、そのために俺が生まれたんだ」
アッシュが言う予定だった言葉をルークがつなげた。当たり前だがガイは首を傾げる。何を言っているのかわかっていない顔だ。
「俺はさ・・・ホントはファブレ家の子どもじゃなかった。でも、ファブレ家の血が流れてるからって陛下も父上も母上も
このファブレ家の子どもとして迎えてくださった」
ルークはそこまで言うがガイは何のことなのかやはりわからない。
ファブレ家の血が流れているなら、公爵の不倫相手の子どもだったりしたのだろうか、などと少々失礼な仮説もたてたがやはりわからない。
「俺は・・・兄、ルーク=フォン=ファブレのレプリカとしてヴァンに造られたんだ」
ガイは今度こそ言葉が出なかった。
レプリカと言えば、いつだったか『フォミクリー』というレプリカ作成技術が開発されたと聞いたことがある。
それによって生体レプリカも理論上可能だ、と。その技術は改良され、全てが
まさかヴァンはその技術を使って彼を造った・・・いや、生んだとでも言うのか。だが、嘘を言っているようにも見えない。
「俺は誘拐されてその能力のためにヴァンの手元に置かれ
ラウアはその誘拐が事実上解決したことにするためにファブレ家に『ルーク』として返される予定だったんだ」
アッシュは驚いて言葉も出ないガイにそう言った。自身の安全は確保されても何処か危険だと思ったから二人で逃げた、と付け加えて。
ガイは少々混乱してはいたが、ヴァンのやろうとしていたことは理解できた。
『ルーク』を攫い、自分の手元におき、レプリカを造ってファブレ家へ返し、表向き誘拐が解決したことにしたくなるほど
ヴァンの考える「何か」のために『ルーク』の持つ力を手元に置いておきたかった、と。
そして、そのヴァンの計画は二人共バチカルに戻ってきたことで失敗した、ということも。
ガイはもう二人の言うことを疑おうとはしなかった。
最初は確かに作り話ではないのか、と疑いもしたが たかだか10歳の子どもがここまで綿密で、それでいて壮大な嘘を
つけることができるはずもなく、そしてそれをしがない一使用人に言う理由が見つからなかったのだ。
「・・・なんでこんなことを俺に話してくれたんだ? もう少し時間がほしいって頼んだのは俺だけど
もしかしたら俺がそれを最近屋敷に来ないヴァンにこっそり伝えてまた誘拐させるかもしれないのに」
何故かヴァンが最近屋敷を出入りしないのはガイも薄々勘付いていたらしい。
だが、いつものようにヴァンのことを『謡将』とは言わなかった。
「ガイには知っていてほしかった。・・・それだけだ」
「・・・そう、か」
ガイは、『復讐』という炎のない瞳でアッシュとルークに対して微笑んだのだった。
翌日、使用人ガイ=セシルと庭師ペールはファブレ家を去った。
もちろんガルディオス家復興のためである。
そんなガイの荷物の中には宝剣ガルディオス。
ファブレ公爵は、既にガイがガルディオス家の者だと知っていたらしい。
キムラスカ軍にはガルディオス家に嫁いだガイの母親であるユージェニー=セシルの親戚、ジョゼット=セシルがいる。
ホド戦争において、セシル家は没落貴族の烙印を押され、それをジョゼットが築き直してきた。
そこに、同じく『セシル』の姓を持つガイが現れたのだ。クリムゾンが調べるのも無理はない。
辞表を渡された際、今までご苦労だった、という言葉と退職金と共にクリムゾンはその宝剣を渡した。いや、返したのである。
「私が
クリムゾンはガイにそう言って、キムラスカ式の礼をとって見せた。
ガルディオス伯爵子息への礼である。使用人でなくなった今
ここにいるのはガルディオス伯爵子息ガイラルディアとその護衛ペールギュントなのだ。
「あの時の痛みと悲しみ、忘れたわけではありません。・・・ですがどうかその言葉、信じさせてください」
クリムゾンは敢えて『当時の恨み』とは言わないガイに罪悪感が増した。彼はアクゼリュスの
だが、ホドの崩落が
その先に何が詠まれているのかまでは知らないが、そのためにたくさんの人々を見て見ぬ振りで殺すのを良しとは思っていないのだ。
ガイはペールを連れてクリムゾンの私室を後にし、バチカル港へ向かったのだった。
だが、どうしてこうも早くガイが復讐を諦め、復興のために動くことを決意したのだろうか。
ガイが去るのを見送りつつ、アッシュとルークは首を傾げていた。
いくら他にいるであろう『時を遡った者』がいたとしても、こうも大幅に変えられるのだろうか。
その答えを、アッシュとルークはまだ知らない。
「イオン様、無事完了しました」
「ご苦労様でした。これでひとまず『ルーク』も『アッシュ』も安心ですね」
ダアトにおけるイオンの私室。そこには若葉色の髪を持つ子どもがおり
その前には部下と思われる、だがイオンよりは年上と見られる子どもが跪いていた。
そこではあり得ないはずの会話がされていた。『ルーク』はともかく『アッシュ』という人物はキムラスカにはいないはずなのだから。
間違っても「聖なる焔の燃え滓」などといった名をつける親はいない。だが、イオンは間違いなくそう言った。
「はい。でもまさか『ルーク』と『アッシュ』がそのままバチカルに戻るとは・・・」
子どもらしい高い声がそう言った。だがイオンは首を横に振る。
「いえ、旅券がないならあり得なくはないでしょう。できるとするならキムラスカ軍に保護してもらう程度。
ケセドニアで乗り換えとは言え、そこからバチカル以外へ行くというのは考えにくい」
そういえば、とイオンの前に跪く子どもは自らの考えの足りなさを恥じた。
「これで『ルーク』と『アッシュ』と『ガイ』は大丈夫として、あとはマルクトの対応ですね」
イオンの前に跪いた部下らしき子どもはそう言った。
「今の皇帝はレプリカ施設の解体のために超振動でホドを崩落させていますからね・・・。
ガイが万が一皇帝に会ってしまうと彼の身が危ういかもしれません」
イオンは深刻な顔でそう言った。
「・・・僕の名において命じます。ピオニー殿下に至急連絡を」
「御意に」
部下らしき人物は命令を受けると素早くイオンの私室から姿を消した。
まだ子どもであるからだろうか。その部下の身のこなしは素早かった。
その部下は
ある部屋に入った。どうやら執務か何かを行う部屋らしい。だが、扉もそうだったが防音設備が整っており
更に、そこにある書類は全てただの、小さな子どもが好みそうな玩具の詳細データにしか見えない。
ここまで奥深くにある部屋に子どもの玩具のデータなどあるはずもなく、それは暗号化された何かの文書なのだろう。
それを一瞥してから、部下は部屋の奥でパタパタと仕事を待っていたかのように翼を動かす鳩を籠から出した。
「これをケテルブルクのジェイド大佐まで送ってちょうだい」
人間の言う言葉がわかるのか定かではないが、鳩はその人間の渡した紙をしっかり掴むと飛び立った。
鳩で文書を送る、ということはすなわち盗難の危険もある。おそらく鳩の掴んでいった紙にも暗号が書かれているのだろう。
それはともかくも、イオンの部下と思しきその人間は鳩が飛んでいった方向を暫く見続けていた。
「大佐、ピオニー陛下が皇帝になるまで『ガイ』のこと、よろしくお願いしますね」