アッシュとルークはまず、カイツールの軍港にてキムラスカ兵に保護してもらった。

『ルーク』の誘拐騒ぎがあったことから捜索隊が組まれていることをアッシュが知っていたため、それは容易かった。

わざと自分達を目撃させるだけで良かったのだが、アッシュとルークがぱっと見見分けがつかないこともあり少々混乱した。

父である公爵に経緯を説明する、ということでその混乱は収束し、公爵宛てにある封書を送りつけてから船に乗り込んだ。

ヴァンの妨害らしい妨害もなく二人はすんなりと船に乗ることが出来た。

ヴァンを含め、何者かに航行中に襲撃されないとも限らないので二人は交代で見張りをし

少しずつ仮眠をとった。子どもの体には負担がかかるのだがこの際しかたがない。

この船で一旦ケセドニアまで行き、そこからバチカルへ戻ることになるが

その間、二人は少しずつ仮眠を取り合っていた。護衛がいるとは言え、安全とは言いきれないからだ。

それに、ヴァンが襲ってくるとすればケセドニアである確率が高い。

『ルークの名目上保護』が出来なくなった以上、ヴァンには『襲う』ことしか手段がないからである。

二人は、バチカルに着くまでの我慢だ、と自分自身に言い聞かせ

ひどい眠気に襲われつつも、次から次へと出る欠伸を噛み殺し二人はバチカルへ到着するのをひたすら待った。

ヴァンがその頃ある人物に足止めをくらっていると二人が知るのはまだ先の話である。








バチカルに到着すると、やや若いが見覚えのある軍人が出迎えてくれていた。

「ルーク様。公爵様より軍港での封書、確かに受け取ったとの伝言を承っております。
王城までの警護は私、ゴールドバーグが務めさせていただきます。おい、お前達」

ゴールドバーグと名乗った将軍はどうやら公爵から命じられたらしく、ややぎこちない動作で二人を隠して守るよう兵に命じた。

第三王位継承者であるアッシュが万が一襲われた場合を考慮しての命令だろう。

だが、ルークは今の段階ではゴールドバーグらにとっては『謎の子ども』である。

赤い髪と緑の瞳を持ち、『ルーク』と同年代の子ども。

その上、ぱっと見見分けがつかないほどアッシュによく似ている。もしかして『ルーク』の影武者かと思ってしまうほどに。

そんな子どもが目の前にいる。上からの命令とは言えやはり目の前にすると戸惑うのだろう。それが行動に顕れたのだろうか。

二人はなんとなくその考えを読み取り、何も言わずに兵に守られつつ王城へ続く広場へ直通の客車に乗り込んだのだった。






時は少々遡り、二人がコーラル城から逃げカイツール軍港からケセドニア行きの船に乗った頃。



バチカルの城ではファブレ家の子息がマルクトに誘拐されたと大混乱に陥っていた。

町へは王の命令で国民を混乱させないよう捜索のための兵が至るところを走りまわってはいたが

国民にはその知らせは届いていないため、町は首を傾げつつも平穏そのものだったのだが。

ファブレ公爵夫人は誘拐事件を聞いたすぐ後に体調が悪いにも関わらず「ルークを探す」と言ってメイド達が必死に止めていた。

一方インゴベルト陛下をはじめ、ファブレ公爵を含めた諸貴族達は誘拐はマルクトが行ったものであると信じて疑わない。

何故なら、主に大詠師の働きで情報操作が行われダアトが犯人から外れたからである。

最も、ダアトがキムラスカの王位継承者を誘拐したところであまり意味はないことから、元々犯人をマルクトに絞っていたのだが。

王位継承者を誘拐され、黙っていられる筈もないインゴベルト陛下は

これを理由に宣戦布告とするべきか否か決めかねていた。

というのも、これが宣戦布告になった場合、預言スコアに詠まれていないことをすることになるからである。

身内の仇をとるか、キムラスカの繁栄をとるか。

インゴベルトは決断を迫られていた。





そんな中、ファブレ邸に1通の封書が届けられた。

ファブレ公爵と公爵夫人宛て。差出人は『ルーク・フォン・ファブレ』となっている。

慌てて、運んできた鳩を調べたが速達用に訓練されている鳩であっただけで何処もおかしなところはない。

公爵は急いで自分の部屋に走り込み、封を切った。

中に入っていた手紙をすべて読んでしまうと、公爵は神託の盾オラクル関係者をも立ち入り禁止とし

公爵、公爵夫人、インゴベルト陛下、そして王女ナタリアの4人のみを謁見の間に集め、封書を再び開いた。

中に入っていたものは、数十枚は束になっていそうな紙束がひとつ、ケースに入れられた壊れた音譜盤フォンディスク

そして『ルーク・フォン・ファブレ』の字で書かれた手紙が一枚。

中身をすべて取り出すと、その場にいる全員が神妙な顔つきになった。

そして、ファブレ公爵が『ルーク』の手紙を手に取ると 皆に聞こえるよう音読を始めた。








前略

突然のお手紙失礼します。

ルーク・フォン・ファブレです。

筆跡鑑定に出して頂ければ本人が書いたものであることが証明できるかと存じます。

早速本題に入りますが私は神託の盾オラクル関係者のある人物に追われています。

その名はヴァンデスデルカ=ムスト=フェンデ。ヴァン=グランツ主席総長です。

確認したところ、私の特異体質、及び特別能力を利用せんとした誘拐ということです。

そして、私を誘拐した神託の盾オラクル騎士団主席総長は、私を手元に置くため

フォミクリー技術を使い、私の模造品レプリカを作り出しました。

どうやら、その彼と私とを誘拐後に入れ替えるつもりだったようです。

証拠の品として、私のレプリカ情報の書き込まれた記録と既に壊しましたが音譜盤フォンディスクを同封致しました。

私は既に弟ともなった模造品レプリカと共にバチカルへ戻ります。

そこで身勝手な話だとは思いますが、彼を新たにファブレ家子息として認めてはいただけないでしょうか?

それから、くれぐれも神託の盾オラクル関係者にはこのことは内密に願います。

下手をすれば戦争となり、罪無き人々の命が失われてしまう危険性があります。

なので、神託の盾オラクル関係者にこのことが漏れぬようにしてください。

私の弟が誕生した時点で既に預言スコアを違えているため、この先ダアトとどうなるか予測がつきません。

では後ほどお会いしたいと存じます。


不一






読み終えた公爵、そして聞いていた四人は重々しい顔つきになる。

特異体質、及び特別能力。それは、ローレライの音素フォニム振動数と同じであること、そして超振動を単独で扱える、ということだろう。

それが、何故マルクトではなく神託の盾オラクル関係者に誘拐されるのか。

こんな出来事は預言スコアにも詠まれていない。

ダアトが隠していたとしても、預言士スコアラーがこのような大事を詠めないはずもない。

ならばダアトが末端まで通達し、キムラスカ・ランバルディア王家に隠し事をしていたことになる。

つまり、ダアトによる計画的犯行ということだ。

そして、突然出来た『ルーク』の弟なる存在。

その弟となったレプリカをヴァンが作り出した、とはどういうことなのだろうか。

確かレプリカを作り出す技術、フォミクリーはマルクトで研究がされていたはずである。

そしてその研究はホド戦争時より姿を消している。まさか、その技術がダアトに漏れたか結託したということなのだろうか。

しかも『ルーク』の能力と特異体質を利用するためにダアトの主席総長がレプリカを造ったとはいよいよわけがわからない。

何故そんなことをする必要がある。まさか『ルーク』が嘘をついているとも思えない。

弟を連れて帰ってくるといっていたのだからヴァンがフォミクリーを使ったのは事実なのだろう。だが何故。

考えれば考えるほど主席総長が疑わしい以外には何もわからず泥沼に嵌っていく。

そして、インゴベルトやファブレ公爵にとって信じ難い文章もあった。

『私の弟が誕生した時点で既に預言スコアを違えている』

確かにそうだ。彼のレプリカが生まれるなど詠まれていない。

もちろんこれもそれほどに些細なことではない。

いや、『ルーク』がアクゼリュスに行けばいいのだからむしろレプリカである弟をアクゼリュスに向かわせれば

我等は第三王位継承者を失わず、しかもアクゼリュスに『ルーク』を向かわせるのだから未曾有の繁栄が約束される。

預言スコアを違えたのではなく詠まれていなかっただけなのだ。

そうに違いない。預言スコアは絶対に外れぬものなのだから。

インゴベルトは隣に座るナタリアが

『ルーク』の無事への安堵とヴァンの行動への不信感へ意識を向けていることをよそにそんな考えを巡らせていた。

ルークとアッシュが謁見の間に向かった時、それが打ち砕かれるとも知らずに。



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