トゥエ レィ ズェ クロア リョ トゥエ ズェ

かつて、ユリアとの契約の証として唄われた大譜歌が夜を照らすセレニアの花の咲くタタル渓谷に響き渡る。

クロア リョ ズェ トゥエ リョ レィ ネゥ リョ ズェ

唯一残った始祖ユリアの子孫、メシュティアリカ・アウラ・フェンデは何かを強く願うかのように唄い続ける。

ヴァ レィ ズェ トゥエ ネゥ トゥエ リョ トゥエ クロア

その傍らにはかつての仲間が控え、彼女の歌声に耳を傾ける。

リョ レィ クロア リョ ズェ レィ ヴァ ズェ レィ

だが、その中にはかつての仲間としては3名ほど足りない。

ヴァ ネゥ ヴァ レィ ヴァ ネゥ ヴァ ズェ レィ

一人は彼女の、瘴気に冒された第七音素セブンスフォニムを受け取りこの世を去った。

クロア リョ クロア ネゥ トゥエ レィ クロア リョ ズェ レィ ヴァ

そして、同じ『聖なる焔の光』の名を持つ二人は栄光の大地で消息を絶ったまま。

レィ ヴァ ネゥ クロア トゥエ レィ レィ

かつての仲間達は、3年という年月が経った今もなお、その二人の帰りを待つべく

栄光の大地が見渡せるこの渓谷へと、彼らの誕生日毎に集まっているのだった。

ティアの歌が終わり、あたりは風の音しか聞こえなくなる。

闇夜を照らすセレニアの花が、風に揺られてサラサラと音をたてた。

「よろしかったの? 公爵家で行われる『ルーク』の成人の儀に、あなたも呼ばれていたのでしょう?」

3年という歳月を経て、大人びたキムラスカ・ランバルディア王女、ナタリアがティアにそう小さく問いかける。

そう、今日は彼らの誕生日であると同時に20歳を迎えた者が行う成人の儀が行われる日。

もちろんかつての仲間達は全員その成人の儀に呼ばれていた。

ティアはナタリアのその言葉に軽く頷く。

「ええ・・・。ルークのお墓の前で行われる儀式に興味はないもの」

墓前で行われる成人の儀。それは彼らがもうこの世にいないと認めたも同然。

彼女はそんなことを認めたくはない。

「そうだよ。二人ともそう思ったからここに来たんでしょ?」

随分と身長も伸びたかつての導師守護役フォンマスターガーディアン、アニス・タトリンが口を挟む。

「それはそうですけれど・・・」

ナタリアは口篭もった。彼らが死んだ。そう認めたくないからここにいる。

それはナタリアもティアも、そしてアニスも同じなのだ。

「あいつは戻ってくるって言ったんだ。墓前に語りかけるなんてお断りってことさ」

ガイも便乗しそう言った。

彼と別れる際、そう約束した。彼は戻ってくる、とそう言った。

だから信じて待つ。ただそれだけ。

皆がそう言っている間、ただ一人ジェイドだけは黙っていた。

彼が戻ってくる可能性が限りなくゼロに等しいという結論があったから。

戻ってきたとしてもそれはアッシュだろう、と。

けれど、その可能性すら限りなくゼロに等しいのだ。

だが、願わくば二人が無事帰らんことを。

エルドラントで別れたあと、彼らはルークとアッシュの二人を懸命に捜索した。

ルークの握っていたローレライの鍵も、アッシュの遺体も懸命な捜索にも関わらず見つからなかった。

そのことに仲間達は希望を抱いた。

きっとそのうち帰ってくる、と。

それはジェイドも同じである。

ローレライの鍵もアッシュの遺体も見つからないのなら、生きているかもしれない、と。

そのわずかな希望にジェイドもかけている。

最悪の結論を信じたくないのは同じなのだ。



歌が終わってからしばらく経ち、冷えた風が彼らをくすぐる。

「そろそろ帰りましょう。夜の渓谷は危険です」

ずっと黙っていたジェイドがそう声をかける。

こうでも言わない限り、全員ずっと渓谷に留まりつづけるだろうから。

ジェイドを先頭に、ガイ、アニス、ナタリア、と皆名残惜しそうにその場を去っていく。

ティアも、栄光の大地エルドラント・・・ホドを見つめ、皆に続く為背を向けた。


カサリ。

そんな、足音のような音が聞こえた気がしてティアは立ち止まり振り向いた。

そこには、探しても見つからなかった赤い髪の男性。

その服装は見慣れないものではあったが、赤い髪の若い男性は自分達の知る限り二人。

月明かりに照らされながらカサリ、カサリと足音をたててこちらへとゆっくり歩いてくる。

「どうして・・・ここに?」

『彼』はあたりを見渡し、ふっと微笑む。

「ここなら、ホドを見渡せる。・・・それに、約束したからな」

涙で彼の顔がかすむ。

ティアはそれを拭うこともせず、『彼』の傍へと歩いていく。

仲間達も、それに続く。ただ、ジェイドだけは何やら胡散臭い笑みを浮かべながら。

『彼』はここに、帰って来たのだ。

それは仲間達にとって最高の喜びである。

「・・・約束したからな・・・・・。アイツが

普段の『ルーク』のようにふっと微笑みつつ後ろも向かずに右手親指で指すのは・・・。

大きな鳥型の魔物に連れ去られている途中と見受けられるグラデーションがかった緋色の髪の青年

助けてくれー、という声も聞こえてくる。

超振動でその魔物を攻撃する、という選択肢もあるのだろうが下は海。

海の真中に落とされ、岸まで泳ぎきる自信がないのだろう。

そして、今なら見える。目の前の紅色の髪の青年のこめかみの青筋が

ルーク・フォン・ファブレ、武器を持っていなかったために鳥型魔物に連れ去られる事件、ここに発生

暫くの間、ジェイドとその渓谷へと歩んできた青年・・・アッシュ以外の仲間達は目が本当に点になっていたのではないか、と後日語る。





「った・・・助かった・・・・」

四つんばいになり、肩で息をする『ルーク』。

それを呆れたように見る『ルーク』。

なんとも予想外な形ではあるが『聖なる焔の光』は二人共この場に帰って来た。

それは、ジェイドのたてた仮説を覆すものであったが、喜ばしいことに変わりはない。

ただ、鳥型魔物に連れ去られる途中の彼をジェイドが譜術で助けるはずが、鳥ごと海に落としてしまい
二度目の臨死体験をするところだったが

海に落とされた彼を、先に知らせてくれた彼と共になんとか引き上げたのだ。

本当に予想外な再会の仕方である

「まったく・・・。俺にローレライの鍵を渡そうとするからこんなことになるんだ屑が」

「だってさ・・・」

腕を組みつつ説教するアッシュ。ルークはまだ肩で息をしている。

「俺は譜術が使えるから魔物がいてもどうにかなったんだ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ」

どうやらその事実を忘れていたようである

はぁっと溜息をつくアッシュ。だが邪険に扱わないところをみると、ルークのことをそれなりに認めてはいるようだ。

「ところで、どうやって二人共帰ってこられたんです? 貴方達は理論上は生還する確率はほぼゼロでした」

言いたいだけズバッと言うジェイド。だが、この後すぐに乖離してしまう、なんてことにならないためにも聞いておく必要がある。

「俺はよくわからん。なんせルークを外へ逃がした後、蜂の巣にされて死んだからな」

ナタリアの顔が悲痛に歪む。

「・・・傷跡は残っていますか?」

そう言われ、おもむろに服を脱ぎだすアッシュ。

ナタリアは驚いてくるりと後ろを向いた。

「・・・ありませんね。・・・軍人とは思えないほどの肌だ」

軍人ならば普通傷跡のひとつやふたつがあるものなのだ。

それが、『鮮血のアッシュ』と異名をとる彼ならば尚更。

さらに、蜂の巣にされた、という剣の痕もない。

それは何者かが痕すら残さずに癒したという証。

「ローレライがなんかしたんじゃねぇの? 俺もなんか乖離おさまってるみたいだし」

乖離がおさまってなければ今この場にいることは不可能。

だが、何故乖離がおさまっているのか。

結局ローレライが何かしたのか、という程度にしかわからない。

「いいじゃん!ルークとアッシュが無事に帰って来たってだけで」

かつてと変わらない口調でアニスが言う。

「そうですわ。それに、疑問があるならば後ほどベルケンドで検査を受けさせてみてはいかがかしら?」

やはり心配ではあるのか、アニスに便乗しつつベルケンドでの精密検査を提案するナタリア。

「・・・そうですね。設備の揃っているベルケンドで後日検査ということにしましょう」

二人の体についてはそれでまとまる。

「話は変わりますが・・・帰ってきて早々申し訳ないんですが、そろそろバチカルに行かないとまずいと思いますよ?」

ジェイドが胡散臭い笑みをしつつそう二人に告げる。

「あ! 今日はお前らの成人の儀が墓前で行われるんだよ! 早く行かねぇと死んだことになっちまう」

「「・・・それは困る」」

二人の声が揃う。

そりゃそうだろう。生きて帰って来たのに事実上死亡確認にされたのでは自分達の立場がなくなってしまう。

「では早くアルビオールへ。もたもたしていては儀が終わってしまいますわ」

終わってしまっては葬式が終わったも同じ。

それを阻止するべく、帰って来た二人を含めた彼らはアルビオールでバチカルへと向かった。










「これをもちまして、ルーク・フォン・ファブレの成人の儀を終わります。
このような墓でしか儀が執り行われぬそのことが悔やまれます」

儀を行うルークの父親、クリムゾン・ヘアツォーク・フォン・ファブレがその言葉で儀をしめる。

そんな言葉に涙する貴族も数人。

ルークの母、シュザンヌはずっと寝室から出てこない。

息子が死んだ、と認めたくないのだろう。

そう考えた人間もいたのか、招待したにも関わらず来ていない人間が多い。

来ているのは、本当にルークを英雄として崇める貴族と、ルークがレプリカだから、と爵位返上を訴える連中のみだ。

予想以上にルークは慕われていたのだ、とクリムゾンは思う。

と、その時天空客車が到着する音が聞こえた。

誰か貴族がこの成人の儀にやってきたのだろう、とクリムゾンはぼんやりと考える。

思いも寄らぬ人物だとは思わずに。




「「父上!!只今戻りました!!」」

同質の、けれど弱冠違いのある声が重なる。

クリムゾンの目の前には、赤毛の二人の息子の姿。

二人の後ろから何やら『してやったり』といった顔をする二人の仲間達。

そして、見るからに舌打ちでもしそうな、爵位返上を求める貴族達

葬式も同然な成人の儀は、一転し帰還祝賀会に様変わりするのだった。





「・・・貴方、この儀の主役なのよ?抜け出してよかったの?」

早速衣装を着替えさせられ、人の海に放りこまれたルーク。

アッシュと共にもみくちゃにされ、やっとこさティアのところまで逃げてきたところである。

ルークとアッシュが帰って来たことをクリムゾンがシュザンヌに伝えたのだが、感激のあまりベッドの住人に。

母と話がしたかったというのに、二人は宴会ムードに突入中の人々の中へ。

逃げてくるのも無理はないだろう。

「どうせもう皆俺達のことは眼中にねぇよ。明日にでも気分が優れなかったので先に失礼しました、とでも言やいいし」

二人は当時のままで保存されていたルークの部屋へとやってきていた。

窓からは宴会の様子がよく見える。

ティアは、逃げてきたその心境がなんとなくわかる気がして頷いておいた。

「それにアッシュもナタリアんとこに逃げたしな」

どうやらアッシュが先に逃げたようである

夜風が二人を包み、なんとなく口を噤む。

騒音と言える騒音は宴会の騒ぎのみだ。

「・・・なぁ、ティア」

しばらくそうしていると、ルークが声をかけてきた。

「・・・何?」

ティアは首を傾げつつルークを見る。

「・・・俺、さ。この世界に拡散するはずだった。でも、今もこうして生きてる」

「・・・ええ。そうね」

何が言いたいのかよくわからないティアは一応肯定しておく。

「生きてる。そのことが嬉しい。また皆と一緒に居られるのが嬉しい」

まだ、何か言いたげな表情をしながらルークはそこで一旦言葉を切る。

「・・・貴方は約束を守ってくれたわ。・・・私も、嬉しい」

普段の彼女からは考えられないような言葉が彼女の口から紡がれる。

ルークは、少し迷った表情をしたあと、何かを決意したかのようにティアの方を向く。

「あのさ・・・て、てててぃてぃティア!」

呂律が回っていない。

ティアは突然挙動不審になったルークに首を傾げる。

「・・・どうしたの? 言いたいことがあるならはっきり言ってちょうだい」

そうティアに言われ、深く深呼吸するルーク。

そして・・・。

「・・・てぃ、ティア。あ、あの・・・ウチに来る気ないか?」

「? 今来てるじゃない

兵士として訓練していた彼女にとって、遠まわしなプロポーズは意味をなさないようだ。

ガックリと肩を落とすルーク。

許婚ができる日はまだまだ遠そうである。

こうして帰って来たその日の夜は更けていった。











まだまだルークは未熟者ゆえこの縁談、お断りさせていただきます

かなりの睨みをきかせたアッシュが、ある貴族がもち掛けてきた縁談を断る。

ルークとナタリアの婚約が解消され、新たにアッシュとナタリアの婚約がなされてからというもの、ルークへの縁談が絶えない。

もちろん政略的なものが大部分だが。

そんな縁談が舞い込んでくる度、何故か本人ではなくアッシュが一蹴しているのだった。

「次から次へとウゼェな・・・。テメェもテメェだ!さっさとヴァンの妹と婚約でもプロポーズでもしやがれ!」

すごすごと貴族が帰っていった扉を見つつ、アッシュは忌々しげにルークを怒鳴る。

だが、その要求はとてもじゃないがこたえやすいものではない。

「んな無茶な! 俺だってそりゃ・・・ティアと一緒にいれたらいい・・・けどさ。でもティアがどう思ってるかもわかんねぇし・・・」

そりゃアッシュはさっさとナタリアと婚約済ませたんだからいいだろうけどさ、と付け加えるルーク。

けれど、どこをどうしたら、ティアがどう思ってるかわからないのか不思議なところである

ずっと傍にいなかったアッシュですら気付くというのに。

アッシュは、まだコイツは子どもだったな、と無理矢理自分自身を納得させる。

その代わり、深い溜息がひとつ。

「おら、仕事だ。行くぞルーク」

うじうじと悩むルークの首を掴んで引っ張っていくアッシュ。

彼はファブレの名を新たに貰い、アッシュ・フォン・ファブレとしてルークと同じ子爵の仕事をしている。

だが、政治面に強いアッシュは主に円卓組。顔の広いルークは外交役だ。

ルークは、首を掴んでいたアッシュの手を離し、アッシュに続いて部屋を出る。

パタリと扉が閉まり、足音が遠ざかっていった。










その後、ルーク・フォン・ファブレは各地に今だ残るレプリカ達の救済に全力を尽くし

その兄、アッシュ・フォン・ファブレはレプリカ救済に関する法を制定し、以後キムラスカ・ランバルディアの発展に尽くしたという。

だが、彼らが具体的にどのようなことをなしたのか。それは誰にもわからない。

もう預言スコアは存在しないのだから。




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