「なぁ、ルー。姉ちゃんはあんたを本当に幸せにしてやれたのかな…」


ナナリーはいつものようにホープタウンの池のところにある自分の弟の墓に報告をしに行っていた。

「今日はね、ロニってやつとジューダスってやつが来たんだよ。
そいつら、馬鹿みたいに厚着してるし、片方は仮面なんか被ってるんだ。
おまけに『ここはどこだ』とか『エルレインに飛ばされた』とか言ってるんだよ。笑っちゃうだろ?」

そこまで話し終えると少し表情が変わる。

「…でもね、あのジューダスってやつのほう…もしルーが生きてたら同い年くらいだったんだろうね…」

ナナリーはもうそこにはいない弟を懐かしむように墓石を撫でる。

その時背後に気配を感じて、彼女は振り向いた。

そこにはジューダスが立っていた。

「お前の肉親の墓か?」

そのジューダスの問いにナナリーは頷く。

「そう。あたしの弟、ルーの墓だよ」

ナナリーはつい先程まで気配を感じなかったことに少々驚いたが

ジューダスが「弟」と聞いた途端仮面ごしに見てもわかるように表情が変わったのを見逃さなかった。

「あんた、兄弟でもいたのかい?」

ジューダスは動揺したが平然を装う。

「…さあな」

ジューダスはこういう時にまで嘘はいけないと思い、いるともいないともとれるような返事をした。

「…ふぅん、そうかい。じゃぁさ…」

ナナリーは立ちあがり、ジューダスを見る。彼女のほうが大きいので自然と見下す格好になった。

「…あたしは…ルーを本当に幸せにしてやれたのかな…」

ナナリーはほうっと溜息をついた。

「最近いつも思うんだ。
アイグレッテに行けばルーの病気だって治ったはずだ。でもあたし達はそれを選ばなかった。それで本当によかったのかな…」

ジューダスはいつものように皮肉を言うこともなく黙って聞いていた。
仮面の奥には先程までの動揺もない。

「ルーはこのホープタウンで短い間だったが精一杯生きたんだろう?ならそれはお前が誇るべきものではないのか?
お前はその弟の分も精一杯生きてやればいいじゃないか」

ジューダスは有無を言わせぬ口調でナナリーを諭した。

けれどこの言葉は同時に自分の姉、ルーティに宛てた言葉でもあった。

自分はもう死んだ人間。だが姉は違う。僕は表舞台に立つことを許されない人間だから自分の分も生きてほしい。

ジューダスの心の中にはそんな思いが渦巻いていた。

ナナリーはそんなジューダスの気持ちを察したのか先程まで涙ぐんでいた眼をわざと乱暴に払った。

「はっ。あたしがこんなにだらしなくちゃルーに顔向けできないね。ありがとう。あんたも頑張りなよ?」

まだわずかに眼は赤かったが、先程までの思いつめた様子はない。

ジューダスはそんなナナリーを見て、もう大丈夫だと一安心した。そのせいか表情もほんの少しだけ緩んでいた。

「そろそろ晩メシの時間だね。あたしはちょっと自分の家に寄ってからおばさんの家に行くから、あんたは先に行っといてくれるかい?」

ジューダスはナナリーの言葉でわずかに緩んでいた表情を引き締める。

「…ああ」

「じゃ、後で」

ナナリーと別れたジューダスはおばさんの家へ行く途中で立ち止まる。

「…姉さん、僕はこの歪んだ世界をお前の息子達と共に元に戻す。
そうすればスタンも生きかえるだろう。それまで・・・待っていてくれ」

彼はそう空に呟くと、すでに淡い明かりが灯り、子供達のはしゃぐ声のほうへと歩いていった。


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