「ああ。なんせ魔物だと村人が勘違いしてたのがただの強盗だったからな」
魔物より強盗の方がよっぽど性質が悪い気がするのだが。
周りで偶然聞いてしまった人間がそう思ってしまうような会話をしていたのは有名な青毛の二人。
特務師団師団長、及び副師団長として教団で活躍中のアッシュとルークである。
「・・・おかえり。もう、終わったの?」
教会の入り口で立ち話をしているところへやってきたのは桃色の髪をした少女。傍らには黄色い毛並みの魔物がいる。
「あ、アリエッタ。ただいま」
「今日はそう難しい任務じゃなかったからな。すぐに終わった」
その二人の言葉に安堵の表情を見せる少女、アリエッタ。
どうやら任務で怪我でもしていないか、と心配だったようだ。
「じゃあ・・・この後ヒマなの?」
きた。
予想通り。アッシュは目でルークに訴える。するとルークも頷く。
「アリエッタ、そっちはヒマなのか?第3師団の師団長だろ?なんか任務でも・・・」
「今日のは、もう終わった」
「あ・・・そう」
ルーク達の考え得る最善の策も脆くも崩れ去る。
後はもう・・・覚悟するしかない。
「それで・・・ヒマ?」
「「ヒマだよ」」
二人は観念したように口を揃えてそう言った。
「じゃあ今日はフレスベルグ! 二人共この子達の言葉、知ってる?」
「いや、まだ教わってない」
アッシュがそう答える。
「じゃあ今日はこの子達の言葉、教えてあげる」
アリエッタが今回先生となってくれるフレスベルグの頭を撫でると嬉しそうに鳴いた。
「今日も・・・か」
「好いてくれるのは嬉しいんだけどな・・・」
アリエッタが撫でている間、アッシュとルークはこそこそと小声で話し合う。
こうして恒例の、アリエッタによる魔物の言葉講座が開かれるのであった。
「クァ!」
フレスベルグが一声鳴く。
「これは何て言ったと思う?」
アリエッタが青毛二人に尋ねる。
「ん〜、『おはよう』?」
「屑が。今の時間帯は『こんにちは』だろうが」
問題点はそこではない。
「二人共ハズレ。『いってきます』だよ」
「やっぱり人間の言葉と違って魔物の言葉ってわかりにくいな・・・」
「俺達は人間の言葉しか知らなかったからな」
「二人共そう思ってるのがダメ。もっと心を通じ合わせなきゃ」
何処かで聞いたような台詞を吐くアリエッタ。
「そう・・・だよな!人間だから出来ません、なんて思ってちゃダメだよな」
アリエッタの言葉にやる気を出したルーク。
それを見たアッシュは、『何故普段はそうやって前向きに考えないのか』と思ったという。
そして、数時間の時が流れ・・・。
「クェ―!!」
「「あ!」」
フレスベルグが叫ぶと、アッシュとルークが同時に声をあげた。
「今の、わかった?」
アリエッタは何処か満足したような笑みを浮かべている二人に尋ねる。
「「『お腹すいた』だろ?」」
「あたり」
「やった!!」
アリエッタのその言葉を聞いたルークは嬉しそうにガッツポーズをとる。
アッシュは何も言わなかったが口元にはうっすら笑みが浮かんでいる。
「これがわかったなら、きっとフレスベルグの言葉も大丈夫」
アリエッタも二人がフレスベルグの言葉を理解したことに嬉しそうに微笑みながらそう言った。
ちなみに、現在深夜。すでに時刻が切り替わってしまっている。
ルーク達がアリエッタの講座に呼ばれたのが昼過ぎ。
半日以上講座で頑張っていたフレスベルグに今は感謝すべきだろう。
先生、ありがとうございました!とまた何処かで聞いたような台詞をルークは吐きつつアリエッタの部屋を後にした。
数日後。アッシュら特務師団はダアト近郊の魔物退治に駆り出された。
相手は数十匹の魔物。
ここまでは別に普通だ。だが、問題なのはそれがフレスベルグということだった。
フレスベルグは単独行動を好み、たいてい1羽、若しくは2羽で現れる。
だが今はそれが数十羽いるのだ。
アッシュとルークは後ろに控えている特務師団兵を待機させ、二人だけでフレスベルグに詰め寄る。
「一体何事だ。お前達は集団行動は好まないはずだろう」
アッシュが剣に右手をかけつつ群れているフレスベルグに問いかける。
『我々は今好んで群れを成しているわけではない。アリエッタに用がある』
「なぁんだ。アリエッタに用があるならついてこいよ。俺達アリエッタの友達だから」
『我々の言葉を理解しているところから見てもそのようだ。ついていくことにする』
「ということだそうだ。全員こいつらを連れて撤退するぞ」
ということだそうだ、と言われましても・・・。
特務師団兵の心はひとつになっていた。
いつも思うけどクェ―とかクァ―とかにしか聞こえなかったっての!!
そう叫びたくなるのを抑える特務師団兵士。どうやらここ最近このようなことが増えているようだ。
「我々には何を言っているのかわからなかったので会話内容を教えていただけますか」
なんとか叫びだしたいのを堪え、一人の特務師団兵士が尋ねた。
「こいつらはアリエッタに用があるらしいから教会まで連れ帰る」
アッシュは本当に手短に内容を伝えた。
そして特務師団兵士が魔物を従えて教会へと進む様子はダアトの人間にとってかなりの驚きだったという。
ダアトには、しばらく前から新たな噂が流れていた。
藍の妖獣見習いと噂される人物達がダアトにいると。
しかし、当の本人達は知る由もない。
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