「きゃ!な、何今の!?」
「ななななんだリアラ!?お化けなのか?そうなのか?ぁあやっぱり言うなー!!」
カイルらは傍から見れば肝試しでもしているかのような探索を行っていた。
このような状況になったののは、表向きカイルの好奇心ということになっている。
実際はロニが思い出してくれることを期待しての行動だったのだが、彼の極度のお化け嫌いは同じのようで
彼は、リアラがわざと驚いたように言った言葉にすら動揺していた。
「ロニ、安心しろ。ここにはお化けはいない。居たとしても地盤の変化によって落石が起こり生き埋めになった人間の亡霊くらいだろう」
憂さ晴らしなのか定かではないが、とにかく状況を楽しんでいるようにしか見えないジューダス。
余計に怯えるのは目に見えてわかっているはずだろうに、とカイルとリアラは苦笑いした。
どうやらこの工場、既に何者かが足を踏み入れているらしく 不自然に灯る明かりがロニの怯えを増長させている。
ここがどういった場所か既に知っているカイルらはもたもたしているロニを引っ張りつつ進む。
途中レンズエンジンなどを発見したが既にレンズは充填済みで稼動していた。
無人廃坑でひたすら動くエンジンほど、今のロニにとって恐ろしいものはない。
もしかして、自分の目に見えない何かがレンズエンジンを動かしているのではないのか、と。
実は、ノイシュタットの自治会が廃坑の様子を確かめるために稼動させただけだったりするのだが今の彼らにそれを知る術はない。
「どうやら何もなさそうだな」
次から次へと出てくるモンスターをなぎ倒しつつ廃坑を一周したカイル達は、入り口付近まで戻ってきていた。
ロニはすっかり怯え、だが傍目には悟らせまいと必死になっている。
そんな彼の手にホーリーボトルが握られているのは全員見なかったことにしていた。
かつては未集積のレンズがあった場所に新たに何かあるかもしれないという理由で、とりあえず奥へも行ったカイル達だったが
自治会の人間が取り残したのであろう未集積レンズ以外、おかしな部分は何もなかった。
何者かがここに入りレンズエンジンを起動させたのだろう、と解釈したジューダスはふと上へと登る階段を見る。
そこは歴史修復の前は土砂によって塞がれていた場所。
恐らく、ここも自治会の人間が確認のために発破をかけたのだろう。
階段を登ると、やはり壁にひとつ大きな穴。
3人は懐かしく思いつつ、そしてあと1人は内心怯えつつその大きな穴へと入っていった。
穴の奥には道が続いており、その奥にはぼんやりと明かりが見える。
そして、ロニのみおどおどしつつ進む。
「・・・ふ〜ん・・・。でもなーんでこんな考え持ってる人が騒乱の首謀者に手なんか貸したのかしら?ホント人の心って不思議よね」
やがて開けた場所に出ると、そこには日溜りがあった。
岩の裂け目から差し込む光が多くの緑を育んでいる。
その奥には石碑と思しきものがあり、そこには先客がいた。
「「・・・ハロルド!?」」
濃い桃色の、手入れも面倒なのか自由奔放な髪、リアラよりも小柄な体つき。
突然叫んだリアラとカイルの声に反応してか、先客はカイル達がかつて見た石碑へ固定していた視線を、振り返りカイルらに合わせる。
そしてカイル、リアラ、ジューダスは驚く。
先客のその青い瞳、顔つきに嫌というほどに見覚えがあったのだから。
服装は違えど、彼女は記憶の中にのみ在るハロルド・ベルセリオスその人だった。
「・・・あんた達どっかで私と会った?」
だが、1000年前の人間が今この場にいるわけがない。
目の前の彼女はその事実をつきつけた。
「いや・・・多分人違いだ」
ジューダスは多少そのそっくりな顔立ちに驚きつつも当たり障りのない言い訳をする。
「そ? うーん・・・じゃあ私も人違いかしら? なーんかあんた達のこと知ってる気がしたんだけど・・・。
ま、きっと気のせいね。あんた達が知らないはずの私のあだ名を言ったから他人事に思えないだけだわ」
彼女は、青いスカートについた埃を払いつつ言う。
「あだ名・・・って?」
リアラが不思議に思い尋ねる。
「ああ、私エスト=ベルセリオスって名前なんだけどなんでか私の友達みーんな『ハロルド』って呼ぶのよねぇ。
『ハロルド』があだ名じゃ、かの天才科学者になっちゃう。『ハロルド=ベルセリオス』って男なのに」
何故か、旅の記憶のある3人は彼女がついた嘘に彼女自身が嵌ってしまっているような錯覚を覚えた。
「そういえば・・・えっとエスト・・・さん」
カイルの遠慮がちな物言いに、ハロルドでいいわよ、と彼女は返した。
「じゃあ・・・ハロルド、なんでこんなとこにいたの?」
他人に見えない他人という微妙な距離にカイルは戸惑いつつやはり少々遠慮がちに尋ねる。
「ああ、なんか金にしか興味のなさそうな成金商人に宝捜し頼まれちゃってね。
報酬もあるって言うし、一応協力してあげたのよ。で、その結果がコレ」
ハロルドはスカートのポケットから掌にすっぽり収まるサイズの石を取り出した。
「・・・これは・・・レンズの力を増幅させる特殊な鉱石か」
その鉱石は、かつてジューダスがリオンとして客員剣士をやっていた頃オベロン社の研究室で見たことがあった。
「あら、よく知ってるわねぇ」
旅をした頃と寸分違わない表情でジューダスの知識を誉めるハロルド。
「かつて、ベルクラントにもこの鉱石が使われていた」
そのジューダスの言葉に引き攣った顔のロニ。
「ってこたぁこの鉱石があればまたベルクラントなんていうおっかねぇ兵器が作れちまうのかよ」
「現実的には無理だろう。今の技術力ではベルクラントは作れない。
唯一この鉱石の解析を進めていたオベロン社ももうないしな」
ジューダスのその説明にほっとした顔を見せるロニ。
やはり彼にとって18年前の騒乱は彼の心に深く根差しているのだ。
「でも・・・ベルクラントの開発チームの人達はさぞ辛かったでしょうね・・・」
リアラがぽつりと言ったその言葉にロニは何か恐ろしいものを見たかのような顔になる。
「な、何言ってんだよリアラ! あんなもの作った人達が辛かっただろうだって!?冗談も大概にしろよ」
「ロニこそ何言ってるの? ベルクラントは戦争のための兵器じゃないのに」
そんな言葉を吐いたカイルをロニは何故そんなことを言うのだ、という顔で凝視していた。
「・・・あんたアホね」
ハロルドは、かつての旅の中でよくロニに口癖のように吐いていた台詞を言った。
「ベルクラントは元々、大地を粉砕して空に巻き上げる装置だったのよ。
その巻き上げた粉塵で新たな大地を天上に形成し、そこに人類が住む予定だったの。
でも、天上が出来て、そこに所謂特権階級の人間が行った途端 彼らは自らのことを
『天上人』と名乗り、その瞬間ベルクラントは兵器へと姿を変えた。
あんた歴史の勉強してないの?」
そう言われた時、ロニはいいようのない感覚に襲われた。
人助けのためとわかっても、それでも自分の本当の家族達を殺した兵器を作った人間に憤る気持ち。
そして、何処かでまったく同じことを聞いた既視感。
一番の驚きは歴史28点のカイルに歴史を語られたことだが。
ロニは、同じことを1度体験したような感覚に襲われたのだった。
「石碑には、なんて書いてるの?」
ロニが再び既視感にとらわれていたことをよそに、カイルはハロルドが見ていた石碑に目を向け問いかけた。
実際はその内容を知っているのだが、ロニやハロルドの手前、念の為である。
旅の時はここでジューダスが嘲笑とは言え爆笑した場面だったが、今回はそんなことはないらしい。
そうすれば生産力は増大し 全ての人々が豊かな暮らしを送れるようになるでしょう
鉱石は ノイシュタットの貧富の差をなくせる奇跡の石となるのです
この奇跡の石は、光との化学反応によってのみ作られるもののようです
偶然 光が差し込むよう岩が連なっていて 偶然この場所に石があった
これはきっと 世界からの贈り物なのでしょう
ですから この場所を壊さぬよう 大切に守っていってください
この場所を守ることがそのまま ノイシュタットの人達を守ることになるのですから
これを読む 未来の誰かへ
オベロン社 ノイシュタット支部長
イレーヌ=レンブラント
1度はエルレインによって再び舞台へ上げられこの石碑を見た。
そして今、またこの石碑を見ているのだから。
彼女よりも先に、自分は自身の生を失ったというのに。
ジューダスも含め、それぞれが石碑に書かれた内容を読み 沈黙がその場を支配する。
リアラやカイルは、どうしてこんな澄んだ心を持ちながら劇薬を選んでしまったのかという思いから。
そしてロニは、やはり1度この内容も読んだことがあるかのようなそんな感覚から。
そしてハロルドに至っては、何故か黙り込んだ彼らを観察するため。
「・・・そうだよな。鉱石は兵器だけじゃない。工場や船にも使えるもんな。俺はそのことに頭が回らなかった・・・」
以前とは弱冠違った台詞を吐くロニ。微々たる違いではあるが、カイルらは少々首を傾げる。
「イレーヌさんは劇薬を求めながらも、やっぱりこの世界の存続を望んでたんだな」
前回この石碑の場所でジューダスが比喩的に説明した際、使った『劇薬』という言葉。
そう何度も使う言葉ではない。 ロニは何故この単語を敢えて使用したのか。
そう思ったカイルがうっすらと期待の色を見せる。
「劇薬・・・って?」
リアラが首を傾げつつ問いかけた。
「だってそうだろ?ジューダスが言ってたじゃねーか。ほら・・・えっと・・・・・・・・・・・・・・? あれ?俺何言ってるんだ?」
カイルは、隠れて溜息をついた。何度もその期待が裏切られているため、今回のことにも冷静に対処した。
「前にもカイルと話しててこんなことあったんだよな・・・。やっぱり俺なんか忘れてるのか?」
そんなカイルをよそにロニはロニでブツブツと独り言を言い出している。
結局、始終観察をしているハロルドはアテに出来ないため、ジューダスがこの場を宥めた。
そして、宝捜しを依頼されたというハロルドと共にその場所を出た。
本来ならば確実に出ないであろう言葉と共に。
「じゃあ『本当の宝』であるこの場所はそのままにして一旦帰ろうぜ」
ロニのその言葉の意味にハロルドを除いた3人は気付いたが、彼は無意識にそう言ったのだろう。
ロニ本人はその言葉に対し疑問ひとつ抱いている様子ではなかったから。
どうやら彼が歴史修復前の記憶を取り戻すのはまだ先のようである。
「持って来たわよ。お宝」
依頼した時には1人だったはずの彼女の後ろにカイルらがぞろぞろと続き、商人のゴテゴテした趣味の部屋へと入った。
その瞬間カイルらは揃って顔を顰めた。
ロニはともかく、カイル達としてはいつ見てもこのゴテゴテ感が不愉快でたまらない。
なら入らなければいいのではないかとも考えそうなものだが
前回宝捜しを引き受けたカイルとしては何故かこの屋敷に足を踏み入れてしまうのだった。
少なくともジューダスはそのことには気付いているが、敢えてこの屋敷に入ったのは
彼女の遺書を金儲けのために利用しようとしたこの商人をこらしめるためである。
彼女が遺したあの場所が、こんな成金商人に利用されたとなっては彼女が浮かばれない。
実際今の技術ではあの鉱石を加工することなどできないが、やりきれない思いもあったのだった。
ついでに言うと、屋敷に入る前に金儲けにしか頭の働かない商人達のささやきを聞いてしまい
一行はハロルドを含め、大変不愉快な気分であった。
少しくらい逆襲してやろうかと思わないでもない。
「おお、これはエストさん・・・心配しておりましたぞ」
そんな白々しい労いをハロルドはテキトウにあしらう。
「で・・・宝は?」
「だから、コレ」
ハロルドはずいと商人の前に差し出している石を強調すべく商人の目の前に石をもっていく。
「いったいコレは・・・?」
商人の目からはどう見てもただの石ころにしか見えない。これの何処が宝だというのか。
「知らねぇなぁ。俺達はただ宝を取ってこいといわれただけなんでね」
商人は、依頼の時には居なかったはずのロニを一瞥し、どうせ依頼した後に呼んだ仲間か何かだろう、と判断した。
「何なのかわからないようなものでは宝とは呼べないのでは・・・」
石ころにしか見えないものなど、売れそうにない。
売ったとしても買うのは鉱石マニア程度だろう。そんなものを渡されてはい報酬ですよと金など渡せるものか。
「そんなに言うなら教えてやろう。これは通称『ジェイドの眼鏡』というかなり珍しい石だ」
「そう、正式名称はジェイド・レンズ。これは、毎月十六夜にアニスという植物の葉で磨けば美しい翡翠になるという伝説の石よ。
なに、商人のくせにそんな知識もなかったわけ?」
・・・なんだか胡散臭いことこの上ないように思うのは気のせいだろうかとカイル達は思う。
「そ、そうでしたか! ではお約束通り報酬です」
そう言って商人はずしりと重い麻袋をハロルドに渡す。
けっこうな額が入っているようだ。
「ああ、そういえば彼女の遺言状はもう不用だろう?
僕は彼女の親戚に心当たりがある。それを譲ってくれないか?」
ジューダスは思い出したように商人に言う。
「イレーヌ様ですね。ならば親戚の方にお渡しください」
ジューダスは『彼女の遺言状』と言って、イレーヌの遺書を持っているかどうかカマをかけたつもりだったが
目先の、しかもあるはずのない宝に目が眩んだのかジューダスの言葉にさして疑問も持たないまま
イレーヌの書いた遺言状を渡してきた。
前回は聞くタイミングも問題だったとは思うのだが、こうもあっさり手に入れるとどうも拍子抜けである。
そして、報酬も受け取ったということで一行は商人の家を後にした。