二人は突然現れた彼に向かって大声で叫んだ。
そして二人はまじまじと彼を見る。
あの懐かしい十字の模様。袖から覗く薄桃色のレース。腰に提げた細身の剣。かつては仮面の奥から見えたアメジストの瞳。
しかし、あの竜族の骨を加工して作られていたあの仮面だけはその頭部になかった。
なければないで目立たなくていいとは思うのだが、どうもないとしっくりこないのは慣れの恐ろしさだろうか。
「・・・仮面は?」
本来それより先に聞くべきことがあるはずなのだがカイルはどうしても気になりまずそれを尋ねてしまった。
どうしてここにきたのか、と問おうとしていたリアラが声をかけようと思わず伸ばした右手が固まり、そのままカイルを見る。
「目が覚めたらなくなっていた」
ジューダスは素晴らしく簡潔な回答をしてくれた。
やはりカイルはカイルか、と皮肉か誉め言葉かよくわからないような呟きを付け加えつつ。
そしてようやく、リアラが問う予定だったことを言う機会が与えられ、3人はそのまま現状報告へと移った。
「こっちは・・・そういうわけなんだけど」
3人はそのあたりにある大きな石等に座り、現状報告をしていた。
だが、まだジューダスの方は報告らしい報告はしていない。
先にお前達からにしろ、というジューダスの言葉に従い先にカイル達が状況を報告していたのだった。
「・・・カイルはリアラと会うまで忘れていた、ということか?」
「リアラに会ったら・・・こう・・・はっ!って感じで」
ご丁寧に身振り手振りまでつけてくれているが、本人ではないのでカイルには悪いのだがジューダスにはよくわからなかった。
リアラは、と言うと自分で思い出してくれたという事実に頬を染め上げている。
そんな中ジューダスは『忘れていた』というカイルに疑問を抱いた。
カイルが忘れていないのなら、何故自分は忘れていないのか。
それよりも何故自分は今ここにいるのか。
ずっと傍にいたソーディアン、シャルティエがいないのも気にかかる。
疑問は膨れ上がるばかりだ。
「とりあえずカイルはリアラに会うまで忘れていた、ということでいいんだな?」
ジューダスは今ある疑問を置いておくことにし、カイルの状況を纏めた。
今は手がかりが少なすぎると考えたためである。
そして、カイルの状況報告が終わり、次はリアラである。
「私は・・・そうね・・・。あのレンズが砕かれて、『私』という精神体はしばらくは残っていたけど
カイルと最期の会話をして消えたわ。そのあと・・・気がついたらカイルと初めて会ったあの木のレンズがあったところにいたの。
その時気付いたけど、ペンダントは何処にもなかったわ。多分神の力・・・聖女としての力を失ってまたこの世界に生まれたんだと思うの」
「その様子だと全て最初から覚えていたみたいだな」
「ええ。私もそれが気がかりなのよ」
「ということは1度死んだ人間が記憶を全て持ったままこの世界に復活している、ということなのか?」
ジューダスはリアラの報告にそんな結論を出すのだが、どうも違うような気がした。
「最後はジューダスだよ」
ジューダスはやはり、今考えておくべきではないとして自分の報告をすることにした。
「僕はあの後・・・歴史の修復作用の後、本来なら消滅するか、時空間をさまようはずだった。
僕は元々リオン・マグナス。本来死んでいる人間だからな。だがどういうわけか僕が目を覚ましたのは
旧ヒューゴ邸。カイルとロニが1度ぶち込まれたところだ。僕が生き返ったとするなら、とまわりを探したがシャルはいなかった」
そしてカイルの様子が気になったから、とラグナ遺跡まで来たとジューダスは語った。
どうやら仮面はなくてもストーカーぶりは健在のようである。
「あれ?でもそういえばここまで来るの随分楽だったな・・・」
ジューダスの報告が終わり、ふとカイルは疑問を持った。
前回、というよりカイルが初めてラグナ遺跡に来た時はもっと仕掛けが施されていたはずである。
おかげで穴に落ちたり天地戦争時代の怪物と戦ったりと苦労したのを覚えている。
何故今回はそれがなかったのか。
リアラは旅の時にカイルからその時のことを聞いてはいるのだが、その疑問に答えられるはずもなく首を傾げて黙っている。
「お前は誰かの苦労をそうやって『楽』の一言で片付ける気か」
そこへ口を開いたのはジューダスだった。
心なしか少し苛々しているように見える。
どうやらここまでの道のりをすんなりと通れるようにしてくれていたのはジューダスだったようだ。
だが、苛々しているところを見るとスムーズに通れるようになるまでに色々あった様子である。
カイルはそんなことには気付かず礼を言い、リアラは苦笑いしていた。
ジューダスとしても、そんなことを知られるわけにもいかなかった。
穴に落ちて天地戦争時代の機械でロープを見つけて這い上がり、石に座って休んだところでブエルと戦闘になり
しかも終わった直後にカイルが自分にすら気付かずそのまま苦労して出現させた階段を登っていったなどということを・・・。
ジューダスはカイルの礼に軽く返事をするだけに留めた。
カイルにだけは知られてはならない、と念じつつ。
そして、ジューダスの裏に気付いていない様子のカイルにほっとする。
「じゃああのロニと倒した怪物もジューダスが倒してくれてた・・・・・・・・・・・・ぁあ!!」
過去を振り返りなんとなくあんな怪物がいたな、程度に言っていたカイルが突然大声をあげる。
リアラもジューダスもカイルだからと思いつつも驚いて彼の方を見る。
「どうしたの、カイル?」
どうしようどうしよう、と明らかに動揺を見せているカイルにリアラは心配になって声をかける。
「遺跡の入り口にロニを待たせてるんだよ!早く行かないとロニのあの長ったらしい秘奥義くらっちゃうよ!ねえ、そろそろ降りよう?」
長ったらしい秘奥義、というのは恐らくロニの最強秘奥義、『震天裂空斬光旋風滅砕神罰割殺撃』のことだろう。
だがそれを『長ったらしい秘奥義』という言葉で片付けるのはいかがなものだろうか。
「そうだな、長居は無用だ。行くぞ」
カイルのその言葉は綺麗に流しつつジューダスはマントを翻しさっさと階段を降り始めた。
「リアラ、行こう?」
「ええ」
カイルの差し出した手をリアラがとる。
そして二人は今日起きた喜びを胸に、その手を握り合いつつ思い出深いこの場所をあとにした。