エルレインの言葉が彼の胸に突き刺さる。
「リオン=マグナスだと!? 嘘だ!」
カイルは、全身でエルレインの言葉を拒否する。
「嘘?嘘かどうかは直接本人に確かめてみるがいい」
エルレインは、そう言ってジューダスを見る。
いつかはこんな時が来ると思っていた・・・。
ここでカイル達に蔑まれようと、憎まれようとかまわない。
僕が一番恐れているのは・・・・
この事実を知って、傷ついてしまうのではないかということ・・・。
今まで信じていた人間が世間の裏切り者だったなんて、と。
「ジューダス!嘘だよね?リオンなんかじゃ・・・・」
カイルは、ジューダスの元に歩み寄るが、言葉が喉にひっかかって続きが出てこない。
それをジューダスはアメジストの瞳で見つめる。
「僕は・・・リオン=マグナスだ」
ジューダスはそう言うと、とうとう仮面を外してしまった。サラリと前髪が零れ落ちる。カイルらの表情が驚きへと変わっていく。
「神よ!大いなる御霊をここに!」
エルレインが右手を大きくあげ、レンズが強い光を放つ。
「しまっ・・・!!」
カイルの声は、途中で途切れ、視界は白く塗りつぶされた。
「ここは?」
「順番からすると、ここはジューダスの夢ってことになるよな」
「でも、こんなところがジューダスの幸せな世界なのか?」
「そのはずだけど・・・」
カイルらは、自らの夢を克服し、ジューダスの夢にやってきていた。
3人はしばらく座って動かないジューダスを心配そうに見つめる。
そしてその彼の服装を見て思う。
あれが、リオンだった頃か、と。
カイル達が様子を見ていると、やがて彼ははっとしたように顔が上がる。
「またか・・・。悪夢はいつも、ここから始まるな・・・、シャル」
彼がそう呟くと同時に足音が聞こえてきた。
カイル達は慌てて岩陰に隠れ、様子をみることにした。
ジューダスは、はっと気がつくと洞窟の中にいた。
忘れもしない。オベロン社の秘密工場のあった洞窟だ。
服装は、いつもの黒衣ではなく、赤いマントに白いズボン、青い上着にブーツという格好で、左耳にはイヤリングがついていた。
「またか・・・。悪夢はいつもここから始まるな・・・、シャル」
ジューダスは、いやリオンはそう相棒に語りかけると立ちあがった。
洞窟の角から、何者かが曲がってやってきた。ジューダスは、彼らを少しだけ懐かしく見つめる。
どうすれば忘れられようか。自分が裏切ってしまった今の4英雄、スタン、ルーティ、ウッドロウ、フィリアの面々だった。
ジューダスは懐かしい気持ちでいっぱいだったがその表情は氷の如く冷たく睨みつけている。
「何の真似だ・・・リオン!」
スタンは、行く手を塞ぐリオンを見て、そう叫ぶ。
「見ての通りだ。・・・ここから先へ進みたければ、僕を倒してからにするがいい」
リオンは、シャルティエを握る手にさらに力を込める。
「何言ってんのよ、あんた!今が非常時だってことくらい、わかってんでしょ!?」
ルーティが叫んだ。
「・・・そんなことは関係ない。僕は与えられた役割を果たすだけだ。お前達を殺すという、な」
姉の言葉に少しだけ言葉が詰まるが、なんとか言いきった。これで後戻りは出来ない。
「目を覚ますんだ、リオン!お前はヒューゴに利用されてるだけなんだぞ!?」
スタンは、最悪の結果を想定しながらもリオンの説得を試みる。
「その通りだ。僕はヒューゴにとって、使い捨ての駒のひとつに過ぎない」
リオンは、交渉のいとますら与えない。
「そんな!・・・そこまでわかってて、どうして・・・!?」
ルーティはリオンのその様子に、顔を悲痛な表情へと歪ませる。
「・・・僕には守るべきものがある・・・ただそれだけのことだ。覚悟はいいか!行くぞ、スタン!!」
リオンは、そう言ってシャルティエを構え、そのまま斬りかかった。
すまない・・・スタン・・・。
ジューダスは、斬りかかろうとする中、そう思った。
「リオン・・・なんで・・・」
息を荒げたスタンの前には、あちこちから出血して、岩にもたれかかっているリオンがいた。
リオンも息が荒い。
とその時大きな地響きと共に、地面が激しく揺れた。
「終末の時計は・・・動き・・・出した。もう、誰にも・・・止められ・・ない・・・」
リオンはそこまで言うと、ぐったりと横になった。
「な、なんだ!?」
「この音・・・まさか水が流れ込んできているのか!?」
ウッドロウのその焦った声に、一斉に退避を始める。
「まずいぞこのままでは」
ウッドロウは急いでその場を離れようとするが、フィリアとスタンは途中で戻ろうとする。
「でも、リオンさんが!!」
「ダメ、もう間に合わない!!」
ルーティが僅かに見えているぐったりした、先ほどようやく知った弟を見つめつつフィリアを引っ張っていく。
「リオーーーーーーーン!!!!」
スタンの叫びも虚しく、水音に掻き消され、そこでブラックアウトした。
「愚かな・・・。何故お前はなおも傷つこうとする?」
カイル達は、岩陰に隠れながらことの一部始終を、そしてエルレインの言葉を聞いていた。
「ただ一言、未来を変えたい。そう言えばこの苦しみから逃げられるというのに。
卑劣な裏切り者ではなく、人々の記憶に長くとどまる英雄としてたたえられるのだぞ?お前の愛する者も、手に入れることができるのだぞ?
愛と名誉、その両方を目の前にして、何故お前はそれを拒む?」
「何故、だと?貴様は、何もわかっていない・・・。僕はこの結末を・・・覚悟していた・・・。マリアンの命こそ・・・僕のすべて・・・。
そのため・・・・なら・・・・・どんな・・・罵りも・・・甘んじて、うける・・・」
ジューダスがそこまで言うと、エルレインは眉をひそめる。
「だから願えと言っているのだ、お前の望む未来を、愛と名誉両方を手に入れる未来を」
「そんなこと・・・は関係ない。僕は・・・自分の・・・気持ちに正直に生きた・・・。なんの後、悔もない。
それを勘違いして僕を・・・操ろう、とはな・・・。まったく、馬鹿な女だ・・・」
ジューダスは、息を荒くしながらもエルレインの甘い誘惑を撥ね退けた。
「・・・ならば、永遠の悪夢を!」
エルレインは、右手をあげ、何かをしようとした。
悪夢・・・か。それもいい・・・。
ジューダスは、そう思って、目を閉じる。だが、その瞬間ジューダスとエルレインの間に何かが立ちふさがり、彼は目を開いて驚いた。
「カイル!?」
そして、カイルの後からリアラ、ロニ、ナナリーと全員が彼の前に立ちふさがる。
「わからない・・・。何故、お前達はその男を庇う?リオン=マグナスは私利私欲のために仲間を捨てた裏切り者なのだぞ?
それだけではない。それを蘇らせたのはこの私なのだぞ?それでもなお、お前達はこの男を信じられるというのか?
裏切り者、リオン=マグナスを!」
エルレインは、ここでカイルらがジューダスの前をどいてくれることを期待していた。ここまで言えば、どいてくれるだろうと考えたのだ。
「当たり前だ!」
カイルは、どくどころか迷い無くそう答えた。
「それに・・・リオンなんて男はオレはしらない。
オレ達が知ってるのは口は悪いけど、本当はいつだって仲間のことを考えている大切な仲間、ジューダスだ!」
エルレインは、思いもよらない答えにたじろぐ。
「ま、仮面は変だけどな。ジューダスはジューダスだぜ」
ロニもへへっと笑いながらそう答える。
「そうそう。ちょっと生意気だけど、あたし達の仲間さ」
ナナリーはそう言って、弓を構えた。
「エルレイン。どんな目的でもう1度、生を受けたとしても彼は私達の大切な仲間よ。あなたの思い通りになんか、させない。
それにもう、彼はリオンじゃないわ。彼は・・・ジューダスよ!」
リアラがそう言うと同時に、ジューダスの血に濡れた体が光に包まれる。そして、光がおさまるとそこには
黒衣に竜族の骨を加工した仮面をつけた、カイルらのよく知るジューダスの姿があった。
「おのれ・・・・」
エルレインは、悔しそうにそう言い残すとそのまま消えた。
「よし、戻ろう!目を覚まして、オレ達の歴史を取り戻すんだ!」
カイルの言葉に全員頷く。そして、5人は、光に包まれる。
まったく、物好きな奴らだ。
・・・カイル、ロニ、リアラ、ナナリー・・・。ありがとう・・・。
ジューダスは、元の世界に戻るべく、光に包まれながらそう思った。
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