ルークは今、非常に焦っていた。

何故かと聞かれたら焦ってるもんは焦ってんだよ!としか言えないほどに焦っていた。

「どうしたの?」

いや、どうしたのって聞かれましても。

そう思いつつルークが見やるは亜麻色の美しい髪と白い肌、そして深く蒼い瞳。

もちろんその下にはルークが『メロン』と称したものがあるのだが、この際置いておこう。

「な、なななんでティアの膝がおおおお俺の頭に!?」

呂律の回らない上にどもる声をあげるルーク。

少し聞いただけでは謎な言葉である。

けれど、『ティアの膝』と『俺の頭』の単語から考え得るものといえばひとつしかない。

それを裏切らず、彼女の膝の上にルークの頭がのっている。

所謂膝枕というものが成されていたのだった。

「だって貴方、寝ていたし・・・」

普通寝ていたからと膝枕はしないだろう

「いや、そりゃ俺は寝てたけど!」

どうやらこのあたりだけで一般常識というものが崩落しているようだ

「なんで俺が寝てる間に膝枕になってるんだっつーの!」

ルークが弱冠顔を赤くしながらティアに問う。

そりゃそうだろう。

旅の途中、目的の町に到着したということでフリータイムになり、ルークは昼寝によさそうなスポットを探して寝ていただけなのだから。

草を枕にしていたのに起きたら自分をずっと見てくれている彼女の膝になってました、じゃ焦るのも無理はない。

「だ、だから私は貴方が寝てたその頭の下に大きな石があったのが気になって・・・」

ルークは疑問に思いつつティアが立ったおかげで見えるようになった、彼が頭を置いていたと思われる場所を見てみる。

素晴らしくゴツゴツとした石が存在感に溢れている

これに気付かないルークも流石、といったところだろう。

「それに・・・」

ティアのポツリと言った言葉にルークが気付いてティアを見る。

彼女の方はというとつい口に出してしまっていたといった様子で、慌てて口を塞ぐがもう遅い。

「それに・・・なんだよ?」

ルークは小首を傾げつつ問いかける。

「・・・・・・」

ティアは無言だ。

ひょっとしてティアの言いたくないことだったのか?

ティアの気持ちも知らないで俺無神経なこと聞いたのかもしれない・・・。

ルークは持ち前の卑屈根性でドンとネガティブな思考に陥るのだが

『膝枕してた理由が聞かれたくないこと』にあたる理由に気付かない時点で流石というほかないだろう。

「あ、言いたくないんならいいから」

ルークはやはり気付かずにそう言って笑う。

「そ、そうじゃないの!!ただ・・・」

ティアは驚きつつ即座に否定し、言葉を一旦切る。

彼女からしてみればそんな返答が返ってくるとは思わなかったのだろう。

ルークは、違ったのか、と少しだけ安心しつつティアの言葉を待つ。

ティアはと言うと少し言い辛そうに、そして少しだけ悲しそうな顔をしつつ口を開いた。

「貴方が・・・消えてしまうんじゃないかって・・・・・思ったの」

「あ・・・・・」

ティアはそう言うと少しだけ悲しげな表情をして俯いてしまう。

レムの塔での瘴気中和を境に、ルークの体の存在は不安定になっている。

時々は手足が透けている、なんてこともある。

そう長くはもたない、と医者からも宣告されているのだ。

「貴方が寝ていて・・・そのまま、いなくなるかもしれないって・・・思ったから。だから、貴方がいることを、確かめたかった」

ティアは俯きつつぽつぽつと話していった。

ルークはそれを黙って聞いていた。

こんな自分をこんなに心配してくれたのだ、と思いながら。

見捨てられて当然のことをしたのにずっと約束通り自分を見てくれている彼女が自分を心配してくれている。

ずっと慕っていた兄を倒す弟子、という彼女からすれば仇にすらなりそうな自分を。

もう長くは生きられない自分を。

ルークの心は純粋に嬉しさで溢れていた。

そして彼は、話し終えて俯いたままのティアの手をとる。

彼女がそれに気付き顔をあげた。

「膝枕・・・・・・して、くれないか?」

ルークは顔を赤らめつつティアに尋ねた。

ティアもティアでその問いに顔を真っ赤に染め上げる。

「だ、ダメか?」

そりゃそうだよな、さっきはティアが心配してくれてたから膝枕してくれただけだし。

ルークは半ば諦めつつそう言った。

恋人でもないのにそう何度も何度もしてくれるわけがない、と。

けれど・・・。

「・・・・・・・・・・・いいわ」

耳をすませなければ聞こえないような声でティアは言った。

その顔はルークに膝枕を頼まれた時よりも更に赤い。

ルークはバッチリその声が聞こえたらしく、やはり頼んだ時と同等かそれ以上に顔を赤く染めている。

「ほ、ほら・・・やるんならさっさとして!」

ティアは承諾後の沈黙が恥ずかしくなり、ルークの首を引っつかんで座った自分の膝の上にあおむけに倒した

ルークは首を引っ掴まれた際に驚き少し暴れたのだが、頭の下に先ほどもあったティアの膝を感じ大人しくなる。

というか、膝枕をするのに首を引っ掴む人ははたしているのだろうか

ルークが膝枕され、二人を暖かい風がくすぐる。

ティアの膝が心地良い。

そして、流れる風が心地良い。

この風にすら自分の第七音素セブンスフォニムが僅かずつ流れていっているのだろうか。

そして最期には、自分はこの世界に拡散する。

だけど、今は・・・。

せめて今だけは。

こうやってティアのぬくもりを感じていたい。

彼女のぬくもりを感じてる間は、とても安心できるから。

だから、せめて今だけは・・・。


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